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「教科書? ちょっと待って」
光希は自分の鞄を開けて中を探るが、自分の教科書があるだけだった。
「無いよ」
「さよか。じゃあ学校に置き忘れたんやな。おおきに。戻って探してみるわ」
由貴は電話を一方的に切った。
光希は携帯電話を畳むが、再び開くと家族に学校に忘れ物がある旨をメールで送り、学校へと戻ることにした。
光希が学校へと着くと、あまり間を置かずに由貴と鉢合わせた。
「光希。何で、学校へおるん?」
「一緒に勉強した手前、気になってね。探すなら一緒の方が早いだろ。見つからなかったら僕の教科書をコンビニでコピーすることもできるし」
「律儀やな」
由貴は口では呆れ気に言ったが、本心では嬉しく思った。
二人が学校に戻った時は午後6時50分を過ぎていた。
風が少し強く見上げる4階建ての校舎が、風を吹き下ろしている。
風音が校舎にぶつかって風鳴りとなり、校庭の砂埃を舞い上げ、由貴は乱れる髪とスカートの端を押さえた。
本当に風だろうか。
いや、校舎が生き物のように喉を鳴らしているように思えた。そびえ立つ校舎が巨大な魔物のように感じたのは気の所為か。ほんの30分前に帰る時の見た校舎はこんなにも不気味だったかと光希は思ったが、早く用事を済まさなければと行動した。
「由貴。早く職員室に行こう。教室の鍵を借りれなくなるよ」
「せやな」
光希は1階にある職員室に明かりがあるのを見つつ、由貴と共に昇降口を抜けて職員室に行くと、何人かの教師が居た。
遅い時間の生徒の訪問に教頭は少し驚いていた。由貴が事情を説明し、教室の鍵を借りると3階にある二年生の教室へと向かった。
静かだった。
廊下を歩けば生徒たちとすれ違い、会話の喧騒が途絶えないというのに、今は光希と由貴の足音が響くのみだった。
まるで廃墟に迷い込んだような感覚さえある。
「夜の学校って不気味だね」
光希は呟く。
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