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由貴は自身も怖さを感じていたが、気弱な女と思われたくなかった。
「なんや光希。アンタ怖いんか?」
由貴は光希が強気なことを言うのを期待し、そこに付け込んだ会話に持っていこうと思ったが、光希はあっさり認めた。
「怖いよ。何か凄く嫌なものを感じる。妖気って言うのはこういうことなのかな」
「ヨウキ?」
訊き返す由貴に、光希は周囲に気配せしながら答える。
「何か悪いことが起きそうな気配のこと」
二人は階段を上り、二年生の教室がある3階に着く。自分たちの教室である2-2の教室へと向かった。
光希は教室の鍵を空けると、入り口にある照明のスイッチを入れる。教室内が明るくなる。まるで命が宿ったように、安心するものがあった。
由貴は自分の机の中を探ると、声を出して喜ぶ。
「あった。ウチ何考えとったんやろ、帰ってからも勉強すんのに机ん中に戻しとったわ」
光希は由貴の探し物があったことに安堵し、二人は教室の施錠を確認した。
「良かったね」
「いやぁ、すまんな」
由貴は笑いつつ廊下の暗さに驚いた。教室に居たのは、ほんの1、2分間のことであったが、廊下が闇に浸っていた。
「……何か、えろう暗いな」
「そうだね」
光希と由貴は闇が続く廊下の先を見た。教室を出た時に時計を見た時は午後7時3分だった。
数秒の沈黙。
静寂が、耳障りな音になっていた。
光希は、鞄に入れてあった手のひらサイズのLEDライトを点灯させる。小さいながらも、希望を照らす明かりだった。
「お。ええもん持ってんな」
「安物だよ。さ、帰ろう」
二人は廊下を歩き南側の階段を降り始めた。
「足元に気をつけて」
光希は足元を照らしつつ、由貴を気遣った。
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