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「これは、恐怖の階段の一つ、『異世界に続く階段』という奴だね」
「何やそれ」
「夜中に忘れ物を取りに教室へ行き、さて帰ろうと階段を降りるが、いくら降りても1階に着かず、そのまま行方不明になってしまう。
3階建ての校舎のはずが、なぜか屋上ではない4階に続く階段がある。4階に行ってしまうと戻れなくなる。
という話しだよ」
「そんなアホな……」
由貴は窓から見える風景が変わっていないことから、同じところを巡っている事実を認めた。
「それにしても光希。あんた、えらい落ち着いとるなあ」
動じた様子をみせない同級生に、由貴はそちらの方にも驚いていた。
「いや。びっくりしているよ。
でも、由貴だって不思議な体験の1つや2つあるだろ。僕だって子供の頃に幽霊やUFOを見たことがあるから。どんなに不思議で説明できなくても、自分の目で見て確かめたことが真実だよ。
何が起こって僕たちが学校から出られなくなったのかは分からないけど、一種のタイムループが起こっているんじゃないかな」
光希は階段上と下の階段を照らし、由貴は訊く。
「タイムループ?」
「時間の輪だよ。これは時空を超えて未来や過去に移動するタイムスリップの特殊なケースかも。時間は過去から未来に向けて逆戻りできない方向性を持っていて、これを《時間の矢》って言うんだ。
例えば、水の入ったガラスのコップを床に落としたとする。どうなると思う?」
光希の問いに由貴は少し怒った様子をみせる。
「バカにせんといて。そんなん床でコップが割れて水が飛散るやろ」
「そう。割れたコップがくっついて再びコップになり、水がそのコップに戻ることはない。絶対に。
もしこれが起こるなら、時空に歪みが生じたとしか考えられない」
荒唐無稽な話しではあるが、2階に下に降りたにも関わらず4階から降りているのは、光希の云う例え通りあり得なかった。
下に落ちた物が上に戻るように。
「でも、過去に戻るなんて。そんなことが現実に起こるん?」
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