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大崎舞はいつだって自由な人間だった。
暗がりの部屋に帰ってくるや否や、「ロンスカで飲み会とかあざとい」なんて、姿見に映るロングスカートの私を見つめながら言う。
「何が」
「ミニスカは如何にも! って感じでしょ? ロンスカは、『そんなつもりじゃ全然ありませんよ』の清純派に見せかけて、ヤる気満々。絶対、真のビッチはロンスカ女だから」
「……ヤる気って……」
高過ぎず低過ぎない位置で結わえた髪をほどけば、「ほらぁ。あざと」なんて、唇に綺麗な弧を描いて笑う。
「風呂じゃ風呂じゃ」
今後彼女の言葉にいちいち耳を貸すまいと、風呂場へ向かう。帰宅前に弄ってたスマホ画面は確か、23:11と表示していたから、今は0時前といったところか。大学の飲み会って、本当に自由だな。二次会はこれからだというから、大学生の体力って底知れない。
「人付き合い苦手なくせに、よく行ったね」
からかうように笑う。鬱陶しいなと思いつつ、舞はいつも私から離れない。
「アンタだって行ったじゃん」
「だって、お酒好きだし。今、彼氏もいないしさぁ」
「……いるじゃん、彼氏」
風呂が溜まるのを待つまでの間に、決定的な睡魔がやってくることが予想できた。アルコールのせいもあって、頭がいつもよりふわふわとする。夜になっても蒸し暑くなった気候に、じんわりと汗をかいてしまっていることを自覚しているので、さっさと服を脱ぎ、シャワーを浴びることにした。
「彼氏って、先輩のこと? それとも、あいつ? もしくは……高橋さんのこと?」
シャンプーをしていてもお構いなしに会話を続ける。頭の中では、彼女が挙げた相手の顔が順々に浮かんで、溜息を吐いた。
「……アンタは、ほんと。何がしたいの?」
人生始めての大学生活を謳歌!ということなのだろうか。二十歳になった瞬間から酒を飲み。深夜遅くまで友人と騒いだり、友人なのか彼氏なのかよくわからないゾーンの異性と体を重ねたり。
その真意を問うのは、別に初めてではない。
「愛されたいのよ」
「…………」
誰か、彼女を止めてやってくれ。と、心の中ではいつも思っている。けれど、彼女のその、嘘臭い笑みの下に隠した、複雑な心理のことをよく知っているからこそ、何も言えなくなってしまう。
私は、大崎舞のことが好きではない。
けれど私は、それほどに、大崎舞のことをよく知っている。
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