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「恵!」
呼び止められて振り返れば、同じサークルの明香音だった。
ぎくり、とした内心を隠して、上手く笑う。
「明香音、おはよ。宿題やった? 原文訳すやつ」
「やったやった! って言っても、ネットの翻訳使ったけどね!」
「あ、賢っ! 私、めっちゃ辞書とにらめっこしたわ!」
真面目か!と笑われて、一緒に笑う。ほんと、受験ぶりの感覚だったわーと戯れ言を重ねて、講義室に辿り着く。適当に空いている席に座った。
「ねぇ、ところで、恵ってまだあの子と話したりしてるの?」
「……あの子?」
座るなり、唐突に肩を寄せて声を潜めて来るので、何事かと驚いた。きょとんと返せば、名前を知らないらしい彼女は、『あの子』の身体的特徴を言い出す。
「ほら、飲み会に居た、背が低くて、髪が黒くて長い、童顔の……」
「ああ」
思い当たるのは一人しか居ない。
その子がどうしたの?とこちらが訊く前に、合点したと分かった明香音はやや興奮気味に続きを語り出す。
「とんでもないビッチらしいよ、実は」
「……」
「背が低いのとエロいのって、ほんとに因果関係あるのかな」
「……待って。朝っぱらから、講義室で。何言い出してるの? やめよ、この話……」
くくく、と明香音は笑って、「確かに」と寄せていた肩を元の位置に戻した。明香音のこういうところ、何と無く、舞に似ている気がする。
だからだろうか。
明香音の彼氏が、舞とも関係を持っているのは……。
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