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「こ、小春……
今どこにいる? 」
目覚めた要は真っ先に恋人を探した。
目覚めたといっても包帯に包まれた目が開くことはない。
近くに居ていつもの優しい声を聞かせてくれ、という願い。
「ここにいるよ」
その願いに応じるよう、小春は優しく落ち着いた言葉を掛けた。
「ごめん……
こんな事になっちゃって」
付き合って初めてのドライブデート。
夕陽の落ちる海に見惚れ、カーブを曲がりきれず崖から転落。
それからどれくらいの時間が経ったのかは分からないが、今は病院に居て、二人とも生きているということだけは理解出来た。
「初デートの行先が病院だなんて笑っちゃうね」
台詞はおちゃらけていたが、小春の声は泣いていた。
「ごめん……
俺、俺…… 」
慰める事しか思いつかず、小春の声の方へと肩を動かし左腕を伸ばす。
だが、肘から先の感覚が全くない。
目も見えず、手の感覚もない中、想像だけで動かし優しく頭を撫でる。
「私は大丈夫だから。
要は何も考えずしっかり体を治して」
小春は、要の差し出した肘から先が無くなった左手を握り締める。
「海に着いたら手を繋ごうって思ってたんだ」
涙声で恥ずかしがりながら嬉しそうに言う小春の言葉に、
「小春の手、温かいな」
要のある筈の無い左手が握り返す。
「要の手も温かいよ」
小春の無くなってしまった右手を……
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