おにぎりと兄妹

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 水瀬を盗み見れば、彼は表情を一切変えず、お皿に注文通りのおにぎりをのせている。お客様の会話やプライベートにむやみに立ち入らないようにしているのかもしれないが、普段と全く変わらない。  恋バナやかわいい女の子の話に、水瀬は興味がないのだろうか。福子がいたら、絶対に中館をからかっているはずだ。  お盆におにぎりのお皿と豚汁が入ったお椀、お新香の小皿をのせる。三角にしたおにぎりの頭頂部から茶色いしょうが焼きが顔をのぞかせている。白いご飯の中から顔を見せるしょうが焼きは、嫌でも食欲をそそられる。  二人そろって注文したシラスは、海苔の代わりにとろろ昆布を巻いてある。淡白なシラスに、わずかに酸味のあるとろろ昆布が、意外と合う。とろろ昆布が持つ磯の香りが、ひよりの空腹の身に直撃する。  この二人は、私に空腹であることを思い出させる。気になるけど危険なコンビと頭の中にメモする。 「お待たせいたしました。こちら昆布とシラスです」  レディーファーストで、亜咲の前にお盆を置く。「ありがとうございます」という亜咲の声を受けて、会釈する。
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