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店主としてだけでなく母親、時には祖母のようにお客様に寄り添っていたというツヤ子。彼女を慕っていた人は多く、ツヤ子が亡くなった今では恩を返す番だと来てくれている。
いただきますと声がして振り向くと、亜咲が手を合わせている。その奥では箸片手に手を合わせている中館の姿が見える。手を合わせるのを忘れて、慌てて手を合わせたようだ。
二人そろって、最初に口をつけるのは豚汁だ。ゴボウに人参、ちぎったこんにゃくに豚肉。具だくさんの豚汁は、肌寒い夜にはもってこいのメニューだ。
「寒い時の豚汁って、ほっとしますよね」
「温かいものがあるとないとじゃ違うよね」
二人がほっと息を吐く。おにぎりに手を伸ばし、それぞれが注文したおにぎりを味わっている。
「ここ、よく来るの?」
今度はナンパっぽい。おそらく仕事熱心なはずの中館だが、セリフだけ聞くと軽薄な男に聞こえる。いや仕事熱心すぎて、女の子との会話の仕方を忘れたのかもしれない。
「そうですね。金曜日の夜に」
「花金か」
「そうです。花金、ご存じなんですね」
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