おにぎりと兄妹

9/51
157人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
 店主としてだけでなく母親、時には祖母のようにお客様に寄り添っていたというツヤ子。彼女を慕っていた人は多く、ツヤ子が亡くなった今では恩を返す番だと来てくれている。  いただきますと声がして振り向くと、亜咲が手を合わせている。その奥では箸片手に手を合わせている中館の姿が見える。手を合わせるのを忘れて、慌てて手を合わせたようだ。  二人そろって、最初に口をつけるのは豚汁だ。ゴボウに人参、ちぎったこんにゃくに豚肉。具だくさんの豚汁は、肌寒い夜にはもってこいのメニューだ。 「寒い時の豚汁って、ほっとしますよね」 「温かいものがあるとないとじゃ違うよね」  二人がほっと息を吐く。おにぎりに手を伸ばし、それぞれが注文したおにぎりを味わっている。 「ここ、よく来るの?」  今度はナンパっぽい。おそらく仕事熱心なはずの中館だが、セリフだけ聞くと軽薄な男に聞こえる。いや仕事熱心すぎて、女の子との会話の仕方を忘れたのかもしれない。 「そうですね。金曜日の夜に」 「花金か」 「そうです。花金、ご存じなんですね」
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!