高菜は知っている

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 パンプスを買いなおさなきゃいけない。けれど、そのお金があったら当面の間は食べつなぐことができる。  ひよりは左肩にかけたビジネスバッグをかけなおす。右手には旅行用のキャリーバッグ、背中には通学で使っているリュックを背負っている。  これが今のひよりが持つ全財産だ。  キャリーバッグの中には大学の入学式で着たスーツとパンプス、衣類がぎゅうぎゅうにつめられており、入学式で使ったきりのビジネスバッグには大学の教科書や貴重品、リュックには歯ブラシなどの生活用品がパンパンに詰められている。  キャリーバッグに入りきらない冬のコートやセーターは着用している。おかげでちょっとした雪だるまのように着ぶくれして見えるだろう。頭には季節外れのニット帽をかぶっており、首には春らしい優しい色合いのストールではなく赤いタータンチェックのマフラーを巻いている。すれ違う人から、怪訝な視線を向けられたのは一度や二度ではない。  気恥ずかしさと着こんで暑くなったせいで、背中が汗でぬれて冷たくなっている。こめかみを伝う汗をコートで乱暴に拭う。 「汗が原因で風邪ひいたなんて、シャレにならないし」
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