高菜は知っている

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高菜は知っている

 空が茜色に染まっていく。ねぐらとしている山へ帰るのか、上空からはカラスの鳴き声が聞こえてくる。  街灯がつき、車はライトをつけ始めている。近くの飲食店からは、スパイスの効いたカレーのにおいが漂ってくる。 「お腹空いた……」  食欲を誘うカレーのにおいに、ひよりはお腹に手を当てる。丸一日、何も食べていない身にとって香辛料が効いたカレーのにおいは殺人的だ。ぐぉぉと、ひよりのお腹は猛獣の唸り声のような音を立てる。  向かいから歩いてきた大学生と思われる、若い女性と目が合う。おそらく、今の音は何なのかとスマホから顔を上げたところだ。ひよりは彼女から目を反らし、何もなかったかのように足早に通り過ぎる。  道を行くのは学校帰りの学生にサラリーマンやOL、買い物帰りの女性たちだ。どの人たちも血色がよく、充実した顔をしている。 「みんな、いいなぁ……」  充実した顔をしている人たちを見て、ひよりは視線を足元に移す。今年の初売りで買ったグレーのパンプスは履き古され、かかとがすり減っている。あろうことか、つま先がボロボロになっていることに昨夜気付いたばかりだ。
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