14人が本棚に入れています
本棚に追加
一時間半ほど前、千優は自宅から少し離れた海岸にいた。
深い理由はない。凪いだ海を見れば心が穏やかになれるかもしれないと思った。ただ、それだけのことである。
平日の昼間、南中高度が一番高い時間に出歩く人はそういない。
だだっ広い砂浜に、見える人影は疎らだった。
土日になれば、家族連れやカップルで賑わう場所だ。千優にも恋人はいるが、ちょっとやそっとで会えるところにはいない。
相手が隣にいる人達と比べてしまって、心が置いてけぼりになる。
だから、静かな今の状況がちょうどいいと思った。
千優はコンクリートの階段に腰を下ろすと、白い日傘でギラギラと照りつける太陽を淡く受け流しながら、海原の青をぼんやりと眺めていた。
最初のコメントを投稿しよう!