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一目見た瞬間に、角に丸みがあって柔らかな筆致だと思った。女性の字だろうか。少しだけ右上がりに書かれた、綺麗な走り方の文字。
千優は額に浮かんでいた汗を手の甲で拭うと、便箋に綴られた内容をそのまま追いかけた。
『今どこにいますか?
もう、訊いてもしようのないことなんだけど。
風の便りで、貴方がお嫁さんを貰ったと聞きました。
相手が私じゃないのが残念だけど、別に恨んでいるんじゃないの。本当よ。
お互い幸せになろうねって、別々の道を歩むことに決めたんだものね。おめでとう。それから、お幸せにね。
私は臆病だから、まだ前に進めずにいます。貴方への想いがどこかでくすぶり続けて、消えないの。
少しでも前を向くために、今こうやって筆を落としています。
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