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「真犯人はどうやら子供を誘拐した後、さっきお話しした方法で警察の目の前で身代金を奪い、まんまと金を手に入れた。その上、仲間を皆殺しにして金を独り占めしたというわけですね」 越前屋は忸怩たる表情でそう言った。 「そうですか」 俺は何もない顔をして、そう呟いた。 「しかし、その殺された誘拐グループの仲間とおぼしき被害者たちですが、まぁ悪いことばかりやってきた連中ですが、どうも昔からの知り合いで仲は良かったようで…」 「はあ」 「過去の犯罪においても一緒に何か罪を犯しては捕まったり、そんなことが記録にありました。それとこれは逮捕されたわけではなく事情聴取を受けただけですが、ある誘拐事件の犯人の容疑をかけられた時もそんな感じみたいでした」 「へぇ」 「その事件は誘拐現場で目撃された男の背格好などの証言から容疑者が浮かび、犯人グループの中の二人が容疑者として警察で取調べを受けました」 「そうですか」 「しかし二人とも、犯行時間にはアリバイがあったんです。それで二人は容疑が晴れて事情聴取だけで終りました。しかしですね、そのアリバイを証言をした者が、今回殺された被害者の中にいましたよ」 「え?」 「つまり誘拐グループの仲間に警察はアリバイを証言させて、まんまといっぱい食わされて容疑者を釈放してしまった可能性があるということです」 「そんな…」 「これは警察の失態だと思います。ただ、そのようにですね、この度殺された被害者は悪い連中ではありますが、お互いを庇い合うほど仲が良かったわけです。なのに今回は裏切り者がいて、仲間の一人が金を持ち逃げして皆殺しにした。ということは、金を持ち逃げした人物は彼らとは旧知の仲では無い存在なのかもしれないと思いました。だいたい彼らはいつも4人で何かろくでもないことをしでかしていましたが、4人が死んでいるという事はもう1人居た、つまり今回は5人で犯行に及んだということになります。その5人目の人物は最初から裏切るつもりで、誘拐の計画を彼らに持ちかけて、最後は金を独り占めする計画を立てていたのかもしれない。どうもそんな気がするんですよね」 越前屋はそう言うと、目を光らせた。 「はあ…」 「そして、人質の子供が消えていることからすると、その仲間を裏切って金を独り占めした人物が、今子供を連れ回してるか、あるいは何らかの処置を施した可能性があるということです」 「そうなりますかね」 あの連中の元々仲間ではなかったことがバレたようだ。  そう、確かに俺から誘拐計画を持ちかけた。 あいつらを利用しただけだ。 俺は越前屋に動揺を悟られまいと、無表情を装った。
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