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金は必ず手に入れる。
何が何でもだ。
そのためには、何だってやる覚悟は出来ている。
隆のために…。
もう二度と、自分の息子を失いたくない…
そんな気持ちにひたすら駆られた。
隆は確かに、実の子ではない。
しかし隆と一緒に暮らしていると、まるで誘拐され殺された息子の誠が甦って、自分の目の前で幸せそうに笑っているような錯覚を覚えた。
どこかで隆のことを誠と思っていたのかもしれない…。
その隆が死んでしまう…
海外で心臓の移植手術を受けなければもう後がないと知った時、不意に突然、病院のベッドで眠っている隆の顔が、誘拐され、殺されて遺体となって発見された時の誠の死顔に見えた。
それまでアルコール度数の強いウイスキーを瓶ごとラッパ飲みして、浴びるように飲み、酩酊状態になることで何もかも忘れようとして生きてきた自分が情けなくなってきた。
このままお前は、"二人の息子"を、何もしないまま失って、それで平気なのか?
ひたすら酒に溺れ、仕事もやっていられなくなり、妻も精神を病んで離れていった。
わざと自暴自棄になって何もかも忘れようと放浪し、誤魔化して生きてきた。
それでいいのか?!
自分の内から湧き上がる、鋭利な刃のような自問の言葉に、喉元まで突きつけられた。
あの頃…。
警察が誘拐の容疑者を事情聴取だけで解放してしまってからも、ずっと一人で誠が誘拐された現場で二人の男を見たという目撃者に何度も話を聞いた。
誠にやたらと優しそうな顔をして接してきた男…。
あの男は誘拐した幸太にもいつも優しそうな顔をして接して、こちらに意見までしてきたが、誠が殺されることを何とも思っていなかったように、もし幸太が処分されたとしても屁とも思わなかったろう。
そんな卑劣なあの男の偽善極まる優しげなしたり顔には反吐が出て、あの男にはつい感情的になってしまった。
一番最初に殺してやりたかったのもあの男だ。
手の甲に蛇のタトゥーのある男。
グループのリーダー。
誠を誘拐した時、誠を連れ去る車の運転席にいた男らしく、その時に特徴的な蛇のタトゥーが目撃された。
この、手の甲に蛇のタトゥーのある男を糸口に、長い間、探り続けた。
最近になって、この男は何故か、周りに防犯カメラが無い地域の廃屋同然の古いビルを人知れず不法占拠していた。
たぶん、何かの犯罪に利用つもりだったのだろう。
しばらくすると、一緒に事情聴取を受けた、あの優しそうな顔をした偽善者と、後二人の仲間がそこに集まってきた。
廃屋同然のビルに密かに盗聴器を仕掛けて、そこでの会話を傍受すると、不意に誠を誘拐し殺したのがこの4人だという告白に近い確証をついに得た。
奴らは様々な悪事で手に入れた金は悪銭身につかずで、すでに無く、どうやら金に困っている様子だった。
奴らを誘拐計画に利用出来ると思った。
そして奴らに、誠の復讐をする絶好の機会が、ついに与えられたのだと思った。
誠の復讐をして、隆を生かす。
それが、自分が"二人の息子"にしてやれる、
たった一つのことだと思った…。
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