冒険に出る

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冒険に出る

 彼らは食堂でランチを食べていた。  窓からチョウが入ってきて、勇者のタマゴがそれをじっと見つめていた。 「夜明けと共に冒険の旅に出るぞ」  勇者のタマゴが思いつきでそう言った。 「明日?」  パンを食べながら魔法使いが聞く。 「うん」  そう言ってジュースを飲む。  これで出かけることは、なんとなく決まった。 「どこに行くんだ?」  計画的な僧侶が聞く。 「決めてない」  行き当たりばったりな勇者タマゴ。 「じゃあ、火の山で」  勇者タマゴが適当でも、僧侶はなんとか修正する。 「モンスターを倒せるならどこでも行くぞ」  戦士は火の山と聞いて嬉しい。そこそこな距離でドラゴンなどの大物もいる。 「おやつはいくらまでですか?」  紅一点の魔法使いは空気は読めても読まない天然。 「相場は300円」  僧侶がクソ真面目に答える。 「バナナはおやつですかお弁当ですか?」  もはや答えはどうでもいい。 「旅先で店に入ればいいだろう?」  燃費の悪い戦士は300円のおやつでは満足できない。それに旅先での食事は彼の楽しみのひとつだった。 「それとは別。おやつはロマンだよ」  力を入れて魔法使いは言う。もちろん彼女も旅先で食堂に入るのは楽しみだ。楽しみでない者はここにいない。 「お前はいつも荷物が多いんだ。カバンに入る量で決めろ」  戦士の言葉を聞いて、魔法使いが目を輝かせる。 「カバンに入れば300円以上でもOKってことだね」  彼女は戦士の答えが気に入った。 「大丈夫だとは思うけど、おやつ以外もカバンに入れろよ」  僧侶は心配になった。 「おやつだけ持ってくお子様だと思ったわけ?」  それには誰も返事をしなかった。 「今日はこれで帰る。だいたい1週間くらいか?」  ランチを終えた僧侶が言う。行っている期間を師匠でもある寺の住職に伝えなければならない。 「冒険は、いつ帰れるのかわからないものだ」  勇者タマゴは飄々と言う。 「1週間で帰るからな」  ますますしかめ面になった僧侶が期間を決めた。でも、これで帰れるかはわからない。 「え~」と勇者。 「は~い」と魔法使い。  戦士はどうでもよかったので関係ないことを考えていて返事はしなかった。 「じゃあ、明日の夜明けに街はずれで」  約束の場所はいつもと同じ。 「また明日」  口々に僧侶を見送る言葉を言う。
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