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「今どこにいますか?」
数時間後、全く同じ声でそう電話がかかってきた。
「宮島」
「それはわかってます!」
それなら何が聞きたいのか、そう思いながら首をかしげる。
「宮島のどこにいるか聞いているのです」
ああ、なるほど。俺は目の前のスナメリを眺めながら答えた。
「水族館」
「水族館ですね。少々お待ちを」
そう言ってまたぷつんと通話が途切れる。何を待つのか、なんとなく予想が付いたがまあ、それはそれか。俺は携帯でスナメリの写真を撮って次のコーナーへと移動した。
「今どこにいるんですか?」
なんとなく怒っているような気がするが、気にせずまたいつも通り答えた。
「宮j――」
「それはわかってますから!」
そんなに怒らなくてもいいのに。俺は赤い橋に寄りかかって言う。
「紅葉谷公園」
「なんでじっとしててくれないんですか! 今私がどこにいるかわかりますか?」
「宮島」
「それはそうなんですけど……」
あきれた声でそう言った後、ふいに彼女はフフッと笑った。
「変わりませんね、あなたは。……それでは少々お待ちを。今度はちゃんと同じ場所で待っていてくださいね」
そしてまたぷつんと通話が途切れる。携帯片手に紅葉が下に落ちていくのを眺めながら、ほぅ、と短くため息をつく。指先がツンと冷たくて、手を静かに固く握った。
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