106人が本棚に入れています
本棚に追加
1 午後3時、いつもの場所で
その人が笑うと、秋の日が差すみたいだった。きれいな淡い光。
日の当たらない場所でうずくまっていたら、ふわっと照らされて、ほんの少し温まるみたいな。
午後3時、いつもの場所で、いつもの時間。
コンビニの前。
あの人は隅の灰皿の横にいる。煙草を吸いに来ているだけだから、そんなに長くはいない。でもほとんどずれることなく、きっちり同じ時間にいる。
待ち合わせをしているわけじゃない。タイミングがずれれば会うことはない。
でも逆に、その時間に行きさえすれば、会うことができる。
今日は少し遅れてしまった。
大学の西門を出る。この時間は空けているのだが、断れなかった雑用が予定通りに終わらなかった。
走ったりはしない。焦れる気持ちを抑え、むしろのんびりと歩く。
どうしても会おうとするのは違う気がする。トラブルなく、ズレもなくあの人に会えればその日はいい日、という占いのような。
角を曲がる前で立ち止まる。
きれいな空だった。白いすじ雲がいくつも流れ、その向こうには高く淡い青が見える。
秋もだいぶ深まっていた。
あの人に会える時間がもうすぐ終わる。
彼が卒業して、就職すればここへ来ることなんてないだろう。
なにくわぬ表情を作って角を曲がった。
コンビニが見えると、副島樹が俺に気がついた。
「ミサカ。なんで今日もいんの」
副島はそう言って笑う。ほんの少し嬉しそうに。それだけで胸が苦しく、温かさが広がる。多分この人は、俺の三坂洵というフルネームを知らない。俺と副島は約束を交わすほど親しくはない。
「そっちもね」
顔を合わせると、このやりとりから始まる。決まっていることがくすぐったく、安心する。
店に入り適当に飲み物を買った。急いではいけない。いつものこと、という素振りで店を出る。店を出たときに副島がいなかったら、と思う。でも副島はそこにいた。ちょっと淋しそうに見える背中で立っていた。
「寒くなったな」
副島がめずらしく気温のことなんかを話す。
俺は副島の隣の壁に背中をつけて、ヨーグルトドリンクのパックにストローを差した。
最初のコメントを投稿しよう!