1 午後3時、いつもの場所で

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1 午後3時、いつもの場所で

 その人が笑うと、秋の日が差すみたいだった。きれいな淡い光。  日の当たらない場所でうずくまっていたら、ふわっと照らされて、ほんの少し温まるみたいな。  午後3時、いつもの場所で、いつもの時間。  コンビニの前。  あの人は隅の灰皿の横にいる。煙草を吸いに来ているだけだから、そんなに長くはいない。でもほとんどずれることなく、きっちり同じ時間にいる。  待ち合わせをしているわけじゃない。タイミングがずれれば会うことはない。  でも逆に、その時間に行きさえすれば、会うことができる。  今日は少し遅れてしまった。  大学の西門を出る。この時間は空けているのだが、断れなかった雑用が予定通りに終わらなかった。  走ったりはしない。焦れる気持ちを抑え、むしろのんびりと歩く。  どうしても会おうとするのは違う気がする。トラブルなく、ズレもなくあの人に会えればその日はいい日、という占いのような。  角を曲がる前で立ち止まる。  きれいな空だった。白いすじ雲がいくつも流れ、その向こうには高く淡い青が見える。  秋もだいぶ深まっていた。  あの人に会える時間がもうすぐ終わる。  彼が卒業して、就職すればここへ来ることなんてないだろう。  なにくわぬ表情を作って角を曲がった。  コンビニが見えると、副島(ソエジマ)(タツル)が俺に気がついた。 「ミサカ。なんで今日もいんの」  副島はそう言って笑う。ほんの少し嬉しそうに。それだけで胸が苦しく、温かさが広がる。多分この人は、俺の三坂(ミサカ)(ジュン)というフルネームを知らない。俺と副島は約束を交わすほど親しくはない。 「そっちもね」  顔を合わせると、このやりとりから始まる。決まっていることがくすぐったく、安心する。  店に入り適当に飲み物を買った。急いではいけない。いつものこと、という素振りで店を出る。店を出たときに副島がいなかったら、と思う。でも副島はそこにいた。ちょっと淋しそうに見える背中で立っていた。 「寒くなったな」  副島がめずらしく気温のことなんかを話す。  俺は副島の隣の壁に背中をつけて、ヨーグルトドリンクのパックにストローを差した。
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