2 もう会えない

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2 もう会えない

 朝起きると、少し冬っぽい匂いがした。  頭の奥がかぴかぴに干からびてしまったように、軽い頭痛がする。眠りが浅く、終点の見えない道を延々と歩き続けている夢を見た。  昨日副島が煙草をやめようか、と言っていたことが思ったよりもショックだった。悪いものを食べてしまったみたいに、目が覚めてもちっとも消化されていなかった。  今日は副島は来ないだろうか。起きてからそのことばかり気になった。  うだうだ布団に居ついていたが、起き上がって顔を洗い着替えた。  昨夜作ったポトフを温める。料理の名前を言えばそれらしいけど、野菜とにんじんじゃがいもにソーセージを入れて煮て味をつけただけ。元気がなくなるとこれを作る。これが食べたくなって、俺は元気がないんだなあ、と気づく。実家の味というわけじゃなくて、一人暮らしをはじめてから覚えた。  ぼーっと火にかかった鍋を見る。  人を好きな気持ちは俺の意思に反している。俺は平和に暮らしたい。暢気にひなたぼっこをするみたいな日々を送りたいだけなんだ。  たまたまよく行く場所が同じで、たまたまなんとなく話すようになって、彼の噂を聞いたり、周辺事情を知ったり、あの心を掴まれた笑顔を見たりした。そんな偶然がたくさん重なったがために、副島を好きになってしまった。  いつの間にか鍋がぐつぐつと煮立っていて、俺はコンロの火を止めた。  スープボウルを薄っぺらい天板の折りたたみテーブルに置いて、一口啜った。あったかい液体が喉を通って胃に染みていく。  今日はいい天気だ。すりガラスの向こうの空が青い。  今日はなにも予定がない。  ポトフを食べながら、どうしようかと考えるのは、副島のことばかり。しょうがないからとにかく掃除と洗濯をすることにした。したはいいけれど、それ以外になにも手につかなくて、俺は午後3時にコンビニに着くように部屋を出た。  表に出てしばらく歩いて薄着すぎたとようやく気がついた。なんてぼんやりしているんだろ。上着を取りに帰ったら間に合わないかもしれない。もう仕方がない。そのままコンビニに向かった。このまま太陽が出ていてくれていれば、なんとかいけるかも。長居なんてしないだろう。  角を曲がれば、もうすぐそこだ。 「あ」
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