2 もう会えない

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 寒くなってくると、この次のことを考えはじめる。冬という区切りを前に、先の展望について考えを巡らせるようになる。これもその一つなのかな。俺はそう結論づけた。 「ソエジマの噂はよく聞いたけどね」  ゲイの知り合いは多くはない。だいたいのことは行きつけのバーで聞いた。あの子大丈夫なの、と知り合いのお姉さんに聞かれたこともある。それほど仲良くないんですよね、と答えた。けれどその人が俺に尋ねるということは、外から見ると副島と俺は親しく見えるのかもしれない。 「ミサカ、かわいいな」 「え?」  副島がミルクティーを飲みながら考え込んでいた俺を見て副島が笑った。よく見る皮肉げな笑いかたではなく、ふっと、体温が匂ってくるような優しい表情だった。どきっとした。  目のやり場に困って、視線を周囲に向け、また副島に戻ってきたときには、もうその優しさの残り香だけになっていた。 「なに言ってんの」  俺の考え込むところの、どこがかわいいになるんだ?  自分を落ち着かせるために、ため息をついた。  意識したくないし、期待もないほうがいい。  それから俺たちはいつもより長く話した。  何度も間を取りながら、空を見ながら、ぽつぽつと。  隣にいる俺に、副島はいつまでいるのか、とかそんなことは聞かなかった。俺もいつまでも帰らない副島を茶化すことはなかった。  日が落ちかけ、空に一番星が見えるころになって話が途切れた。 「そろそろ帰るか」  ずいぶん長い立ち話だった。  副島がこちらを見て眉をしかめる。どうしたのかと思っているうちに、彼は自分の上着を脱いで俺の肩にかけた。 「寒かったな。悪い」  びっくりしてなにも言えずに副島を見た。副島はやはりまたなにか言いたげな表情をして、背を向けた。また振り返る。 「明日、返して」 「え」  俺が来たのとは別の方向に遠ざかっていく。なにが起こったのかすぐに理解できなかった。  副島が角を曲がるまで見送る。 「……急に、なに」  ひとりつぶやく。  急に優しくして。どうしたの。  眉をしかめたのは、多分、俺が寒そうにしていることになぜ気づかなかったのかという意味。  俺はふわふわと地に足のつかない気分のまま、家路についた。上着を羽織ったまま。副島のぬくもりに抱かれてるみたいで、袖を通したくなかった。それも幻想なんだけど。  自分の部屋に着く頃になって、俺はようやく気がついた。  副島との間に、はじめて約束ができた。    
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