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「当たり前だよ。だからこうして後悔のないように僕は父さんに付き合っているんだ。父さん、僕の父さんでいてくれてありがとう。今までもこれからも」
部屋の隅の母さんの鼻をすする音が聞こえた。
「樹……、お前は本当にいい子だ。私には過ぎた子だよ……」
父さんがまたクイッと缶を呷ってから、姿勢を正す。
「父さん、母さんも、今まで僕を育ててくれてありがとうございます。僕は明日、女の子になります。これからもよろしくお願いします」
父さんが瞼を拭う。
「ああ応援するよ」
「樹、手術が終わったらみんなで美味しいものを食べに行こうね」
母さんもたまらずに声をかける。
「父さんも母さんも待ってて。ちゃんと帰ってくるから」
きっとどう足掻いても親には勝てないのだろう。勝てないのだから一晩だけ息子になることなんて大したことじゃない。恩返しにも親孝行にも全然足りないけど、これだけは約束します。
必ず幸せになります。あなたたちの子供で良かったと胸を張ります。これからも笑顔で暮らしていきます。
感謝を込めて。
了
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