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楓花と森、万里の長城で出会う
楓花はフェンスの下から手を伸ばした
あと少しでとれそうだがギリギリ届かない
楓花は指を伸ばした
「ラッキー!100円拾った」
楓花の指先わずか3センチのところまで近づいていた100円玉が宙に浮いた
楓花は100円玉の動きを目で追った
「それ、オレの…」
「ん?」
拾ったのは背の高い男だった
茶髪でチャラそう、でも顔は端正で、まるでノコギリクワガタのようにシュッとしていた
ブレザーにネクタイをしているから、これが隣の男子校生なのであろう
男はしばらく楓花を見た後、
「今日体育あった?」
と聞いた
「は?それいま関係なー」
楓花が苛立ちを覚え始めたその時、
「スポブラ、裏っ返しじゃね?」
楓花は自分の胸元を見た
息苦しくなるから、制服のワンピースの上から2つ目までボタンをしていなかった
その開いた襟から、愛用のスポーツブラが見えた
楓花は、胸元を隠すのも忘れ、ポカンと男を見た
「何?ああ、100円玉ね。こっちで拾ったものはこっちのものでしょ」
男が近づいてきて、楓花の前で100円玉をちらつかせた
考える前に、楓花はフェンスの隙間に左手を差し込み男の襟をつかんだ
そして、知らぬ間に右ストレートを繰り出していた
楓花の拳は男子生徒のお腹にめりこみ、男子生徒はお腹を抱えてよろけるように数歩後ろに下がった
いつの間にか周りに集まっていた男子校の生徒たちがやんやと囃し立てた
「楓花ちゃん!大丈夫?」
事の成り行きを目撃した依子が駆け寄ってきた
「うん。でも100円が…」
「私がおごってあげるから早くいこう!」
依子に引きずられるようにして、楓花はビオトープを後にした
※※※
男子校では、野次馬たちがアッパーを食らった生徒を冷やかしていた
「お前ら、それ以上見たら次は金るぞ」
男子生徒が一喝すると、ギャラリーは蜘蛛の子を散らすようにいなくなった
予鈴が鳴り、フェンスの向こうの女子生徒らも皆移動していった
渡り廊下に残ったのは4人
楓花にストレートを食らった男子生徒、生駒森が一回り小さいメガネの少年に聞いた
「あれ誰?都内の女子高生はだいたい網羅しているという虞犯少年の鷹取宗谷くん」
「はい、あれは麻布女子から転校してきた安西楓花、16歳です」
鷹取がタブレットを片手に答えた
「麻布女子!?」
「都立の名門校じゃん」
矢継ぎ早に話すのはこれまた友人の鴻池竜次と相馬甫である
二人は180センチはある生駒より大きくガタイがいいため、宗谷が子供のように見える
「なんでそんなところからうちの学校に?」
「しかしいいパンチだったなー。あれは経験者だろ」
森はしばらく考え込むと、宗谷を指差して
「鷹取くん、君に諜報を命じよう」
「アイアイキャプテン!」
宗谷はビシッと敬礼を決めると、まるでイギリス王室の衛兵のように背筋を伸ばして出ていった
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