いつか、君と。きっと、君と。

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 入口のドアが閉じたのを見て、俺は急いでスマホをタップする。 『寛斗っ! 大丈夫なのか! 今どこだよ!』  呼び出し音が1度も聞こえず、即座に張り詰めた声がした。きっと、スマホを片時も離さず、待っていてくれたんだろう。 「ごめん、大陽。今、行きつけの、クリニック」 『クリニック? 今日、通院日じゃねぇよな?』  心配の気配だけ残して、耳に届く声のトーンが変わる。通話を途中で切ったことも、連絡を待たせたことも、責めない優しさに、胸の奥が温かくなる。 「俺のスケジュール、覚えてるの」 『んなこと、あったり前だろっ。そんで……大丈夫なのか、寛斗』 「うん。心配させて、ごめん」  これまでの経緯と、母さんが迎えに来ることを伝えると、スマホの向こうで小さく吐息が聞こえた。 『駅前でお前に似たヤツが、男に連れて行かれたのを見たって、晃太(こうた)がLINEしてきたんだ。それで、ヤバいヤツに拉致られたかもって……生きた心地しなかった』 「そうだったんだ。安心して。それに明日も、ちゃんと約束通りに行くから」  明日は土曜日。大陽と映画に行く。もちろん、デート。天気予報は、雨のち晴れだから、雨が上がってから出掛けようって、彼が提案してくれたんだ。 『そっか……身体、無理するなよ。明日、お前ん家まで迎えに行くからな?』  温まった胸が、トクンと甘く鼓動した。彼は、とことん優しい。それに強くて、格好良くて、こんなトラウマを抱えた俺なんかを大切に守ってくれる。だから――俺も。 「大切な人?」 「ええっ?! いやっ、これはっ」  通話の切れたスマホを眺めながら、耳に残る恋人の余韻に浸っていたら、突然背後から有子山先生の声が降った。いつの間に戻ってきたんだろう? もしかして会話を聞かれていた? 「はは。正直だね。その反応じゃ、相手は友達じゃないな?」  しまった。顔に集まった熱を自覚して、思わず俯く。 「大切な人が出来るのは、良いことだよ」  先生はテーブルの上に湯気の立つカップを2つ、続けてクッキーの入った小皿も置いた。 「スタッフのオヤツを見つけたんだ。遠慮しないで、どうぞ?」  クスクス笑って、チョコチップのを1つ摘まむと口に放り込んだ。どうやら正直なのは胃袋も一緒で、微かにクゥと聞こえたから、「いただきます」を言って、四角いヤツを半分囓った。
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