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もうその頃には僕は楓のことが誰よりも好きで、期末テストの前日に告白したのだった。なんで今日なの、と楓は笑って、いいよ、いいに決まってるでしょ、と、また笑った。よく笑う人だった。
それからクリスマス、正月、バレンタイン。ずっと一緒で、受験も一緒で、その先も結局ずっと一緒だった。結婚して、子どもが生まれて、巣立っていって、楓が、いなくなるまでずっと。
幸せだったな。
振り返ると満たされた気持ちになるのに、いつも涙があふれてくる。幸せな記憶が、多すぎたのだ。楓が僕を幸せにしてくれた。
「時空を旅する」手紙は五枚しかない。最後の返信が届くことを期待して、毎日のように楓の制服の胸ポケットを確かめる。
すると、ある日、手紙が入っていた。
ありがとう。
私は幸せです。
新しい春の風に舞う、楓のうす茶色の髪が見えた。
僕は少し冷たい空気を吸い込んで、
ありがとう。
僕も幸せです。
とつぶやいた。
おわり
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