ふしぎな手紙

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 制服の胸ポケットに、こんな手紙が入っていた。  今どこにいますか  帰宅後、生徒手帳にまぎれたそれを、しげしげと見つめている。  どうしてこんなものが入っているのだろう。放課後の、放送委員の時だろうか。プリントを小さく折りたたんで、胸ポケットにしまっておいたのだ。その時に、この紙がまぎれていたのかもしれない。体育はなく制服を脱ぐこともなかったし、あの時ぐらいしか、心当たりがなかった。  今どこにいますか  目を引いたのは、丁寧に書かれた一文字一文字の日本語と、つるんとした上品な便せんである。何でさっきは気づかなかったのだろう。水面でステップを踏むような韓国語のバラードに、ついうっとりと居眠りをしてしまったせいだろうか。  きれいな文字だった。きっとこの人は、ハンカチを毎回折りたたむ人だと思った。丁寧に、きちんと。 「ここにいますよ」  小さくつぶやいてみた。  すると。 「ここにいますよ」が、口元から吐息のような七つの文字になって、手紙に貼り付いたのである。
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