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楓が亡くなって、一年が経つ。
病名はあったが、結局は寿命だったのだと思う。うまくは生きられなかったけれど、ちゃんと生きられた、そんな人生だった。
「時空の歪み」の存在を知ってから、僕は楓のことを考えるようになった。
楓と、もう一度会いたい。
もう一度だけ。
そうして僕は、家中をひっくり返して隙間を探し、楓の制服に隙間を見つけた。そうして、ようやく購入できたこの、「時空を旅する」手紙を差し入れたのだった。
手紙というものは、ふしぎなものだ。読むと、目の前に本人がいて、笑い、語りかけてくるようである。
ここにいますよ
元気ですよ
いくつ年をとっても、楓はいつでも、出会った時の楓だった。新しいもの好きで、音楽が大好きで、そして声がきれいだった。きれいだね、なんて一度もほめたことはなかったけれど。
手紙なら言えるか。そう思ったけれど、結局それも言えずじまいに終わった。
僕はいつもあなたと一緒です。
あなたの幸せを祈ります。
それで、精一杯だった。
便せんも尽きてしまい、それきり「文通」も途絶えてしまった。
そういえば、季節はもう秋だ。あの頃、そろそろだと受験勉強を始めていたな。放送委員のあとはほぼ毎日、教室に居残って、二人で勉強したりしゃべったりしたんだ。
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