ふしぎな手紙

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 なぜだか、きゅんとしてしまった。ただの文字列だというのに。  この人は、きっとフリクションペンも持っていながら、万年筆も持っている系の人だと思った。つまり、私の周りにはいなさそうな、知的で、すてきな、しゃんとした人。そんな気がした。  それにしてもこの手紙は、どういう意味なのだろう。なぜ私の胸元に、この手紙は入っているのだろうか。ラブレターにしてはムードがなさすぎるし、ラブどころか、これでは手紙の書き出しにもならない。 「元気ですよう……」  そうつぶやいたら、「元」「気」「で」「す」「よ」になって、また勝手に便せんに吸い込まれていった。  何なんだこれは。  あと今気がついたが、私の声も、差出人と同じ美しい手書き文字に変換されてしまったのだった。万年筆もフリクションペンも、別に関係なかったのだ。  私はまたそれを折りたたんで、今度は迷うことなく胸ポケットに戻した。  するとやはり、その手紙もまた、もう一度のぞき込んだ時にはもうなくなっていたのである。  一週間後、手紙はまた来た。また私の胸ポケットに。
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