ふしぎな手紙

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 あなたはどんな方ですか?  私は中学三年生です。  受験勉強が大変で、勉強を教えてくれる人がいたらいいなと思っています。  よかったら教えてくれませんか?  放送委員をやっているだけあって、我ながらなかなかの美声である。美しい声は、美しい文字となって便せんに付け加えられた。ただし文字数が多すぎたせいか、ミミズがのたくったみたいになってしまったが。  それでも私は満足したので折りたたみ、手紙を胸ポケットにしまった。  そしてきっちり一週間後。また手紙は届いた。  勉強が大変なのはいいことです。  よく考える大人になって下さい。  私はため息をついた。  何と含蓄のある言葉だろう。感情を含まない差出人のアドバイスは、何もかも言い尽くしてしまった哲学者の、冷たいメガネを想像させた。  年上の人なのか、あるいはただ単に上から目線の人なのか。しかし斜め上から差し出された言葉は真冬の毛布のように、最初は冷たくても次第にぬくもりを帯びていくのだった。  この人は絶対に、すてきなコーヒーヌガーチョコレートに違いない。私はそう確信した。  がんばります。  ありがとうございます。    と「入力」した。
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