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「生徒が校内に持ち込んだの、エアガンよ」 「なにそれ」 「あなた何歳(いくつ)よ、子どもたちと一緒になってなにやってんの」  二百歳は超えているはずだけど……と内心つぶやきつつ、なにも返せずただ呆然と立ち尽くす六花。 「放課後に返す約束だったんだけど、返し忘れたの」 「じゃあ、あの粉は」  悟が勇気をだして口をはさむ。 「うどん粉よ、それもそこのお姉さんの」 「あたしの?」 「うどん作ってみたいって言ったのあなたじゃない」 「え……」  たしかについ先日、秋穂とそんな会話をした記憶がある。秋穂の実家が九州のうどん屋さんとかで、たまに秋穂も気晴らしに作ったりするのだとか。 「なによ悪の組織って」 「だって、悟くんが」 「信じるあなたが悪いでしょ!」  秋穂の剣幕でおもわず六花は縮こまる。どうしよう、ものすごく恥ずかしい。悪の組織だなんて、いまになって思えば、なんて子どもじみた発想なんだ。 「そうさ、六花さんが悪いんだ」 「おう、俺もそう思ってた」 「ええ?!」  少年たちが、まさかのタイミングで手のひらを返してきた。なんてやつらだ、もう二度とごちそうしてやらない。出禁よ、出禁! 「悟くん、茂くん。六花さんに謝りなさい」 「えー」 「先生、怒ってるんですよ」 「……ごめんなさい」 「もう帰りなさい、何時だと思ってるの」 「はーい」  秋穂先生の叱責を受け、少年ふたりは慌てて六花堂(ろっかどう)を去っていった。外はもうすっかり雪が積もっており、気づけば街のひと達がみな必死で雪かきをしていた。 「私も急いで帰らないと。なんなのよ、この雪」 「……秋穂、ごめん」 「いいよ、六花のそういう天然なところ嫌いじゃないし」 「悪の組織じゃ、ないんだよね」 「……あのねえ」  それから、PCなどを急いでバッグに詰め込み会計を済ませた秋穂は店を出ると小走りで商店街の方へと消えていった。  六花はしばらく後ろめたい気持ちでいっぱいだったが、数分後に秋穂から「怒ってないし、また遊びに行くから落ち込まないで」とメッセージが届いたことに安心し、ようやく胸をなでおろすことができたのであった。
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