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まだ閉店時間には早かったが、今日はもう暖簾を下ろすことにした。どうも面倒な話の予感がする。どうせ話を聞いているうちに夕暮れになってしまうだろう。六花はしぶしぶふたりを店内に招き入れ、甘いほうじ茶ラテを淹れた。
「なによ、不思議な力って」
「それが……」
茂はなにかを言いかけたが、結局黙って俯いてしまった。
「茂、未来が見えるようになっちゃったんだ」
「未来?」
悟が代わりに説明をはじめる。どうやら話の発端は二か月ほど前の夏休みに遡るらしい。プールの帰りに茂が熱中症で倒れてこの店に運ばれてきた日があった。
「あの日、茂のお母さんが迎えにきたでしょ?」
「そうね」
六花もその日のことはよく覚えている。意識もなく、重篤な状態にあった茂を救うために手段を選んでいる暇などなかった。悟やほかの子どもたちには店内から出ていってもらい、六花は自らの雪女としての力を二百余年の封印から解き放った。
ただ熱を下げればよいだけなのだが、雪女には逆にそれが難しい。なんせちょっと気を抜いただけでも凍死させかねない。寿命が縮むのではないかと思うくらい、ひどく慎重に対応した記憶がある。
「そのときに見たらしいんだ」
「なにを?」
「……前夜だ」
突如として顔をあげ、そう呟いた茂の瞳は遠くのどこかを見つめていた。
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