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 六花(りか)はしばらく口を尖らして行動をしぶっていたが、ふたりのきらきらとした視線に根負けし、しぶしぶ右の手のひらを前にかざした。茂がカウンター越しに手のひらを伸ばし、お互いの手と手が合わせるような形になる。  ──そして、手のひらを重ねた瞬間だった。 「うわあああッ!」  激しい電流を感じ、大声を挙げながら椅子ごと後ろに倒れそうになる茂。 「茂、大丈夫?」  慌てて椅子を支えながら心配そうに声をかける悟に対して、ひどく青ざめた表情の茂はゆっくりと語りだした。 「いままでで一番ビリビリした」 「なにか見えた?」 「川と小さな小屋、貧しい家族。着物姿の男の子、手には藍色の着物。そう、ちょうど六花さんのエプロンに似た雪の模様が……」 「ちょ、ちょっと! ストップ!」 「どうしたの六花さん?」 「……嘘でしょ。茂くん、一体なにを見たのよ」 「わからない。でも今の時代じゃなかった気がする。なんだろ、もっとずっと昔」 「わかった、信じるから……前夜、信じるわ。だからそれ以上はもう言わないで」  六花は激しく焦っていた。それはまさしく江戸の世の光景に違いなかった。そしてそれは間違いなくの前夜の光景だ。地震による大火が町を飲み込み、六花が人間であることを辞めた日の前夜。  なんてこと、茂の力……は本物だ。  なぜ突然こんな力が……もしや、あたしのせい? あの日、茂を助けたことで妖怪的ななにかが付与された? なによそれ、どういう現象? 「六花さん?」  ぶつぶつと独り言を吐く六花をカウンター越しに心配そうに見つめる少年たち。六花は我に返り慌ててその場を取り繕う。 「あ、大丈夫よ、ちょっとびっくりしちゃって」 「変なの、でも秋穂先生とは関係なさそうな光景だね」 「ああ、たぶん別だ」 「じゃあ、ひとまず後回しだ。六花さんはとりあえず川や着物には気をつけてね」 「うん、ありがとう」  そのとき、突如としてレジ横においてある固定電話が鳴りだした。慌ててカウンターを飛び出し受話器を取る六花。 「はい、六花堂(ろっかどう)です。え、うん、まだ大丈夫だけど。わかった、待ってるね」  ゆっくりと受話器を置く六花を心配そうに見つめる少年たち。気づけばふたりとも椅子から跳びおり、立ちっぱなしの状態になっていた。 「……秋穂が、いまから来る」
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