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「疲れたぁ、やっぱり甘いものは最高ね」 「う、うん」 「なに、元気ないじゃん六花(りか)」 「え、そんなことないと思うよ」  秋穂はほんの数分で六花堂(ろっかどう)にやってきた。六花は慌てて少年たちをカウンターの裏に隠して、あたかも誰もいないかのような素振りをした。 「てか、ごめん。店閉めるところだった?」 「大丈夫だよ、気にしないで」 「やっぱりなんか今日、変じゃない? ぎこちないというか」 「だ、だからそんなことないって」  拳銃の存在を意識したわけではないが、なんとなくカウンターに座らせるのは気が引けて奥のテーブル席に案内した。秋穂はソファー側に座り、肩からはずしたトートバッグを隣においている。  あのバッグの中に拳銃が入っているかもしれない。  おもわず六花の視線がこわばる。茂が見た光景は三つ。六花堂の看板、10月25日、そして拳銃。つまり今日、この瞬間に拳銃を持っている可能性が高い。  そして明日、秋穂の身に危険が差し迫っている。 「秋穂ごめん、ちょっと裏にいるね?」 「うん、お構いなく」  六花は足早にカウンター裏に向かう。息を潜めて隠れている少年ふたりを確認し、しゃがみこんでから小声で話す。 「どうする?」 「とりあえずバッグの中身を確認しよう」 「どうやってよ?」  秋穂のバッグはぴったりと彼女の隣に置かれている。席もなかなか離れてくれそうにない。 「トイレに行かないかな」 「どうだろう」 「六花さんがなにかを服にこぼすとか」 「嫌よ」 「うーん、困った」  そのとき、ふと六花の脳裏にひとつの妙案が浮かんだ。しかし、それを実行するとしたら目の前にいる少年たちにも気づかれてはいけない。どうしようかと悩んだが躊躇している暇もない。六花は意を決し、少年たちにこう切り出した。 「ねえ、いい考えがあるの」 「なんだい?」 「いいから、少しのあいだ目をつむっていてくれない?」 「え、なにをする気?」 「いいから、でも約束して。絶対に目を開けてはいけない」  悟がやや疑り深い目を六花に向ける。六花はウインクしながらお願いのポーズをしてみせる。しぶしぶといった表情で悟が目をつむり、茂もそれに倣って目をつむった。 「いい? 絶対よ。絶対に目は開けないで」  六花は胸に手をあてて精神を集中させる。凍てつくほどの冷気を想像し、それが絶対零度にまで達したところで、かっと目を見開き、鋭い目つきで窓の外を睨む。  ──さあ、雪よ降れ。
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