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場内
ナイフを手に取り、智成は顔を上げた。入場口を入ってまず目に飛び込んでくる三メートルほどの時計塔が、十時半を差していた。
その向こうには三棟の大きなビルが見える。ショッピングモールに隣接した四十四階建てのソレは、十階置きに渡り廊下で結ばれている。智成と美桜は、ここに来る度にその威圧感に圧倒されていた。
視線を落とすと、そこには依然と変わらぬ光景が待ち受けていた。閉鎖されたばかりとはいえ、まだ店の看板も商品もそのままなのだ。ただ一つ、店員が一人もいない事を除けば。
サッカー場の半分程度の広さの中に、そこをぐるっと囲むようにしてお店が並び、丁度真ん中には、三階建てアミューズメントビルが立っている。一階は主にゲームセンターやカラオケ等、二階は映画館、三階は貸し切りの用のイベント会場だ。
智成は意を決して足を踏み出した。左側のショップから順に覗いていこうという算段だ。美桜も後に続く。
緊張しながら最初に覗き込んだのは、スターボックスという、二人が良く入店していたコーヒーショップだ。慎重に店内を観察していく。
ここには誰もいなかった。だが、ここだけで三十分は掛けていた。
「こんなペースじゃ丸一日掛かっちまうな」
独り言のように智成がつぶやくと同時に、携帯が短い着信音を鳴らした。それは運営からのメールであり、一回目の指令だった。
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