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#002
――賑わう街の中で、子供たちに囲まれて歩く女性がいた。
くたびれた白いワイシャツに、擦りきれたジーンズ姿の無表情の女だ。
右手にだけ、彼女の格好には違和感がある黒い手袋をしている。
その感情がない顔のせいで年齢がわかりづらいが、肌つやを見るに二十代後半といったところだろう。
女性はナチュラルブラウンのボブスタイルの髪を手で払うと、周りにいる子供たちへ言う。
「おいおい。はしゃぐのは構わないが、あまり私から離れるなよ。迷子にでもなったら大変だ」
女性の周りにいる子供たちは、素直に「はい」と返事をすると、飾られている国旗や空に映し出されているスペースバトルシップに再び視線を戻して見とれている。
ふぅとため息をついたこの女性の名はアン・テネシーグレッチ。
今から十三年前に起きたコンピューターの暴走を止めた英雄の筆頭と知られる人物である。
その後に起きた世界規模の戦いにも身を投じ、現在は連合国軍で新米の兵士たちを指南する仕事についていた。
彼女の周りにいる子供たちは、戦争で両親を亡くした者たちだ。
アンは自分のできる範囲で孤児たちを引き取り、彼ら彼女らと大家族のような暮らしをしている。
今日は彼女が久しぶりに長い休暇が取れたので、子供たちを連れてこの街――宇宙に浮かぶスペースコロニーの一つであるムーグツーへと旅行にやって来ていた。
アンを含めて子供たちも皆宇宙が初めてというのもあり、さらに連合国軍による軍事パレードを行われるのもあって、全員が普段見せないようなはしゃぎッぷりだ。
「なんかいい匂いがするッ!」
「おいしいものの匂いだッ!」
「あっちだよ! おいしい匂いはあっちからだよッ!」
屋台も出ているので、連合国から招待を受けた各国の料理人たちがその腕を振るっている。
やはりというべき、祭りに美味しいものときて、子供たちの食欲はかなりそそられたようだ。
全員が屋台の前にかぶりつき、今にも食いつかんばかりに、口からよだれをダラダラと垂らしている。
「ねえアン姉ちゃん! これ食べたい!」
「あたしも!」
「おれもおれも!」
皆が我先にとアンに群がる。
買ってくれと手を引っ張ってくる子供たちに、アンは無愛想に返事をする。
「ダメだ。あと数時間で夕食になる。今食べるとお前たちは確実にお腹がいっぱいになり、晩ごはんを残すに決まっている。だからダメだ」
「そんな~! そんなの酷いよアン姉ちゃんッ!」
「そうだよ! こんなおいしいものだらけのところで何も食べれないなんて、まるで拷問だッ!」
ブーブーワーワー喚き始める子供たち。
アンはそんな子供に向かって右手上げ、手袋を外す。
そこには、まるで中世ヨーロッパを彷彿させる白い鎧甲冑のような機械の手が現れた。
そしてその腕から放出した電撃を、バチバチと鳴らし始める。
電撃をまとう腕を見た子供たちは、蜘蛛の子を散らすようにアンから離れ、彼女に悪態をつき始める。
「ズルいぞ、姉ちゃん!」
「そうだよ! 電撃はなしだよ!」
「つーか子ども相手に能力を使うなよ!」
この腕はアンが持つ特殊能力――。
身体の機械化――装甲と呼ばれるものだ。
アンはマシーナリーウイルスという細菌を体内に同居させており、その影響で生身の腕が機械へとなっているのだ。
さらにウイルスの影響で、彼女は特殊人間同士の意思の疎通を可能にする力――Personal link(パーソナルリンク)通称P-LINKを持つ。
アンが電撃をまとう腕で子供たちを黙らせようしていると、傍に近寄ってきた人物が彼女に声をかけてきた。
「ちょっとアンッ!? 街中で何やってるのッ!?」
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