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#005
――エヌエーはAIの兵隊や楽団のパレードが通る場所から離れ、街にある連合国軍の施設に入ろうとしていた。
だが、その出入り口の扉にいた連合国軍の兵に止められてしまう。
どうやら見張りの兵はエヌエーの顔を知らないようで、部外者に見えた彼女のことを中に入れないようにしているようだ。
「だからワタシは連合国軍のエヌエー·オーガニックだって言ってるでしょッ! この格好を見てわからないのッ!?」
声を張り上げて身分を明かすエヌエー。
着ている服も連合国軍の制服――しかも彼女が中佐だということを表す階級章が付けられているのだが。
見張り兵がいうに、見知らぬ人間が施設に入ろうとしたときは、たとえどんなに身分の高い者でも身分証明書――IDカードの提示が必要だと言って聞かない。
「え~と、IDはちょっと部屋に忘れて来ちゃって……。じゃあ、メディスン大佐に確認を取ってよ。彼ならワタシがエヌエーだって証明してくれるから」
エヌエーは、自分の身分をメディスンに確認してもらおうとした。
だが兵は、現在メディスンは仕事中で、この程度のことで呼び出すにはいかないと答える。
それを聞いたエヌエーは、「じゃあ、どうすればいいんだ!」と怒鳴りあげた。
しかし兵は何も答えずに、まるで観光地にある置物のように立っているだけだった。
そこへ豊かな毛を持った仔羊が二本足で立って歩いてきた。
その仔羊が近づいて来ると、兵は背筋を伸ばして敬礼をする。
それから仔羊は腰に巻いていたウエストバッグからデバイスを取り出すと、それを操作してホログラム画面を映し出した。
そこには、エヌエーの身分を証明するIDカードの内容が映し出されており、兵はそれを確認すると仔羊に道を開けて再び敬礼をした。
「ありがとニコッ! おかげで助かったよ!」
エヌエーがニコと呼んだ仔羊は、彼女やメディスンと共に連合国軍ができる五年前から共に過ごしてきた自律型ロボット――電気仕掛けの仔羊である。
ニコシリーズは、もう彼女(ニコは雌型)を最後に現在は生産されていないが。
かつて英雄と呼ばれたアンが連れていたロボットということで、約十年前には爆発的に人気のあったコピー製品だった。
当然エヌエーの前にいるニコは以前にアンが連れていたものとは違い、かといって当時売られていたニコシリーズのような愛玩用でもなく、可愛い見た目をしていても数々の修羅場を潜ってきた頼りになるロボットであった。
ちょうどメディスンを送って施設に戻ってきたニコは、偶然エヌエーが中に入れないところに出くわしようだ。
「メディスンはもうコロニーの外に行ったの?」
訊ねて来るエヌエーにニコは、コクコク頷きながら鳴き返す。
どうやらメディスンはすでに施設から出て、このコロニーの周りを囲んでいる艦隊のほうへと向かったようだ。
ニコは街の港――宇宙船が入港や出港する場所に、メディスンを見送ったことをエヌエーに身振り手振りで伝える。
それを聞いたエヌエーは、突然目の前のニコを抱えて施設にある自分の部屋に走り出す。
「あぁ~メディスンに置いて行かれちゃったよ……とりあえず連絡だけでもしておかないとッ!」
エヌエーの脇に抱えられたニコは、そんな彼女の慌てぶりを見て「メェ……」と大きなため息をついた。
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