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#008
――イーストウッドの率いる連合国軍の特殊部隊ベクトルがムーグツーの外で襲撃を受けていたとき。
アンたちがいたスペースコロニー内では、突然パレードが中止された。
ブリキの玩具のような兵隊や楽団がその動きを停止し、街中に鳴り響いていた音楽も止まってしまう。
「あれ? 止まっちゃった?」
「ねえ、アン姉ちゃん。何が起きたの?」
子供たちがアンに顔を上げて訊ねて来くるが。
当然彼女に状況がわかるはずがなく、何か機械トラブルでもあったのだろうと答えた。
静まり返る祭りに集まっていた人たち。
その場にいた誰もがアンと同じく、ムーグツーの外で起きていることなど考えもしていなかった。
だが、次の放送で街中が大混乱に陥る。
《現在、このムーグツーは何者かの攻撃を受けています。住民の方々は、連合国軍の兵士の誘導する場所へ速やかに避難してください》
その言葉を聞いた住民たちは、それぞれ恐怖に満ちた声をあげ始めていた。
静まり返っていた街が、今度はざわつき出している。
「アン姉ちゃん……」
その状況に感化され、子供たちも震えてアンの身体にしがみついていた。
アンは腰を落として屈むと、そんな子供たちを抱きしめる。
「心配するな。ここにはメディスンとエヌエーがいるんだ。二人ならきっとなんとかしてくれるさ」
大丈夫――。
アンは子供たちを抱きしめながら何度も声をかけていた。
できるだけ穏やかに――。
できるだけ優しく――。
彼女は今口しているように、攻撃を受けていることに何の心配もしていなかった。
実際に、このムーグツーの周囲にいるイーストウッドの部隊ベクトルはかなりの数の大艦隊だ。
それに何よりもメディスンがいる。
襲撃相手が何か策を講じようとも、彼がいれば間違いなく子供たちがいる街まで被害は受けない。
そう信じていた。
「今は誘導にしたがって避難しよう。なに、大丈夫だよ。すぐにまたパレードが見られるさ」
そしてアンは子供たちを落ち着かせると、住民たちと一緒に避難場所へと向かっていった。
だが、戦闘とは無縁の暮らしていた者たちの動揺はさらに広がり、避難誘導は思っていた以上に難航する。
「落ち着いてください! ゆっくり! もっとゆっくりッ!」
避難誘導をする兵士たちからも苛立ちが見えていた。
口調こそ丁寧だが、その声は荒ぶっている。
アンは思う。
これはまずい状況だ。
今はまだ街に被害はないが。
もしムーグツーが外での戦闘で被弾でもすれば、この混乱が抑えられなくなる。
なんとか攻撃を受ける前に避難を終わらせたいところだがと、住民たちと兵士たちの状況に対して不安を抱いていた。
《皆さん、初めまして。私はミント·エンチャンテッドと言います》
避難誘導が上手くいっていない中――。
突然、街中にあるスピーカーから少女の声が聞こえてきた。
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