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「え?」
ふいに視界の端に映り込んだのは、薄汚れた、でも柔らかそうなグレーの塊。
ん?何だ?デカい石?…じゃない…石はふわふわじゃない。
いつもなら気にも留めないのに。
通り過ぎてから、ふわふわしたような質感のモノに、なぜか後ろ髪を引かれてまた引き返した。
ドキドキ高鳴る胸を押さえつつ、ゆっくりとソレに近づいて行った。
「うわ…動いてる…」
それは毛玉だった。
もふもふの毛皮の塊がプルプル震えている。
じっと見ていると小さな耳と足が付いているのが分かった。
まさか、まさか、これは…子猫?いや、子犬だ!
雑種?こんなグレーの犬種って何だったっけ?
どうしてこんなところに。
親は?きょろきょろと辺りを見回しても気配もない。
首輪もない…野良犬の子供か?
親とはぐれたのか、それとも心ない人に捨てられたのか…
「お前、どうしたんだ?こんなところで…
親はいないの?
どっか怪我してるの?お腹が空いて動けないの?」
怖がらせないように優しく話しかけながらしゃがみ込んで、震える身体にそっと触れてみた。あ…暖かい。
びくっと反応し、顔を上げたその子は…薄汚い外見とはかけ離れた美しい青い瞳で、俺をじっと見つめてきた。
その目はまるで泣いているように潤んでいる。
かっわいいーーーーー!!!!!
何だ?この無垢で円らな瞳は!
うっわーーーーー!!!!!
反則だよ、これはっ!
“きゅぅ”
小さな声で、それでも甘えたような声で鳴かれたら…いや、そんな、俺、今から商談なんだけど。
その子は必死で首を持ち上げると、俺の指をペロペロと舐めた。
はうっ
どっきゅーーーん!!!!!
うわっ
ときめいている場合かっ!
あー、いや、時間もないんだけど。
「ごめんね、俺、すごく急いでるんだ。
ごめん…誰か他の人に…」
泣く泣く立ち去ろうとしたら
“きゅぅぅ”
何とも切ない声で鳴かれた。
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