あにばーさりー

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 「初めまして、宇賀神たつみです。一条くんの噂はよく聞いています。算数、とっても得意なんですってね」  後ろの席から、えらく丁寧な挨拶がありました。会ったことはありませんが、地元の名士・宇賀神家の長男と聞き及んでいます。  「得意だっつってもね。コイツ最近まで、数字の何たるかがよく分かんなかったらしいのよ。みんな仲良く1+1=とか計算してる間に、『1や0の概念が分かりません』とか哲学者みたいなこと言ってたらしいよ。なんぼテストの点数良くても、頭のいいバカよバカ」  なゆちゃんが辛辣なコメントを挟みました。はなはだ心外ではありましたが、宇賀神くんの笑いのツボには入ったようです。  「あはは…。いえ、笑ってはいけませんね。ぼくも含めて、誰も数字が何とか理解して使ってるわけじゃないと思いますよ。0と言えば、0の概念自体も7世紀くらいにやっとこさインドで確立したらしいですね。人類の歴史で言ったら最近ですよ最近。父親に聞いた受け売りですが」  僕自身も父親から聞いてはいました。でも、同じことを他人から言ってもらうと多少心が軽くなりました。宇賀神たつみ君、彼もそこまで成績がいい訳ではありません。でも、父親が国文学の教授をしているらしく色々な雑学を知っています。  彼と近くの席になれたことも出席番号順によるメリットだと思いました。そして、後になってからまつ毛が長くて女子みたいだと…。いや、女子よりも可愛い顔立ちをしているなと思いました。この僕が他人の顔立ちについて感想を抱いたことが初めてなので、この時は胸に湧き上がった感情をよく理解出来ていなかったのですが。
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