あにばーさりー

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 「まあまあ、せっ君になゆちゃんね。たっ君から、お話はいつも聞いています。みなさん、ゆっくりとして行ってね」  たっ君のお家は、塀に囲まれた広大な建物でした。離れには蔵があり、後ろに控える山は宇賀神家所有とのこと。外面のいいなゆちゃんは、借りてきた猫のような対応をしています。たっ君のお母さんはこれまた美人で、優しく僕らをもてなしてくれました。  お母さんの作ってくれたおはぎを食べ、弟のみなと君を含めて四人でサッカーをしました。帰り道、すっかり機嫌をよくしたなゆちゃんが言いました。  「たっ君のお母さんって本当に素敵!綺麗だし優しいし、和服似合うしね。あたし、あんな女性になりたいなあ」  そんか言葉を聞きながら、僕は自分のお母さんのことを思い出していました。僕ら家族と離れ、遠くに行ってしまったお母さん。今ではぼんやりしているけれど、同じように優しく美しかった記憶があります。  人に聞いた話では、大層お父さんのことを愛していたと。そのお父さんも、大層お母さんを愛していたと。愛している者同士、どうしてうまくいかないんでしょう。    以前のなゆちゃんの例えで言えば、プラスとプラスを掛けてマイナスになることがあるんでしょうか。…僕には、よく分かりません。また、もし僕がお母さんに付いて行っていたならば今頃どうなっていたか。これも、仮定の話をしても仕方のない所ですね。
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