あにばーさりー

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 放課後、僕は誰もいない教室に忘れ物を取りに来ました。たっ君は晩ごはんの手伝いがあるとかで先に帰ってもらっています。  僕は自分の席から置き忘れていた教科書を取り、さあ帰ろうかと思ったのですが…。ふと、後ろの席で机の横にかけてあったたて笛が見当たりました。こ、これはたっ君が吹いていた…。音楽の時間での、彼の唇を思い出して顔が赤くなりました。すぐさま頭を振って否定します。違う、僕はそんなんじゃない。いやまあ仮に、たっ君に惹かれたんだとしてもこれは無機物。ただの付属物、これに惹かれる理由なんて無い…。  この時の僕の行動が、今でも自分で理解出来ません。僕は机にかかっていた笛を奪い取り、鞄に入れて教室を逃げるように出ました。出るときに廊下で、金之助くんと鉢合わせました。  彼も忘れ物だろうか。笛を奪う所を見られただろうか。気にはなったけれど、とても確かめることなんて出来ません。
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