あー、あの日の、わいの冒険 1年生 その8 「夏生、ハムスターを欲しがる」

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あー、あの日の、わいの冒険 1年生 その8 「夏生、ハムスターを欲しがる」

「今、どこにおるんや?どこいったんや?」  この問いかけで、思い出すもの。  わいの場合、何故か子供の頃、小学校の帰りにいる物売りのおっちゃんの事やった。  別に、そのおっちゃんと何か友情ばなしがある訳でもないし、顔もよう覚えとらん、会話も一言二言しか話してないけど。ある事があって必死で探したんや。  今回はそんなお話し。  わいの名前は 涼石(すずいし) 夏生(なつお)。  これは、あの頃(小学1年生)を思い出しての話。  ちょっと?結構?昔の話。   :    :    :  あー、まずいわー。  この、モフモフ感。  小さなゲージの中、ちょこまかと動き回る、三毛の毛並みのハムスター。たまに、ちょこんと止まり、鼻をヒクヒクさせながら、こちらを見る。クリクリした黒目が、何かを訴えるように、こちらを見る。 見てる。 見てるよ。  あーーー、見てる。  やばい。じつに、やばい。  かわいすぎる。  わいは、ゲージに手を伸ばした。 「こらこら、触ったらあかんで。触ってええのは、これ買ってくれた人だけや」  ゲージの横にいたおっちゃんが、木彫りの何か? を取って、わいの前に差し出した。  今では信じれれへんけど、あの頃は、小学校の帰り道に、なんか怪しい物を売っているおじさんなんかがたまにいた。おもちゃ付きの参考書、訳のわからない実験道具、ハンカチやコインを使った手品道具、どれも、子供ながらに胡散臭(うさんくさ)いと思ったけど、なんでか惹きつけられる。  最初の頃は流石に怖くて、遠巻きに見てたものの、しだいに高学年に混じって近場で見れるようになった。  まあ、いろいろあったけど、その中でも忘れられへんのが、木彫りの置物を売っていたおっちゃんやった。売るものがなくなったのか? 木彫りが趣味なのか?  わいは、おっちゃんに、 「これ、なんなん?」と聞いてみた。 「ハムスターのお守りやで」 「お守り?」 「そや、お守り」  そう言うと、おっちゃんはその木彫りを手に持った。言われてみると、木彫りの置物はハムスターの様やけど、不気味な装飾が施され気味悪い。 「厄よけ、交通安全、合格祈願から安産祈願まで何でもこなすハムスターのお守りやで。安いで、かわんか。いつもは1個千円の所、今日はたったの二百円。二百円やで。……どないや?」  と言って、恐怖のスマイルを近づけてきた。  どないやって。 ……だれが買うねんこんなもん。  おっちゃんは、わいの気持ちなんて考えず、その置き物をわいの手の上に置く。 「ギャッ」と、小さく声がでる。  置物の目がキラリと光る。 「ギョ、今、目、光ったで」 「ええところに気づいたな、ガラス玉が目に入ってんねん。どや、格好ええやろ」 「……う、うん」  おそるおそる置物を台の上にそっと返して、本物のハムスターをもう一度見た。 「……こっちは、かわいいなー」  サツマイモを食べていたハムスターが、動きを止めてこっちを見た。 「あっ」  ハムスターのつぶらな瞳。 「かわいい……」  わいは、目が離せんかった。 「このお守り買ってくれたら、ハムスターあげんで」 「えっ!ほんま、ほんまに、くれんの?」 「ああ、おまけでな。実は、いっぱい子供生まれて困っとってん」 「ほんま? やったね。おまけ万歳や」  もう一度、しゃがんでハムスターをみた。 「あ、今、お金持ってへん」 「お母さんに、相談してき」 「うん。そうするわ」  薄い茶色の毛並みに、黒や白のハムスター。クリクリの黒い目がこっちを見ている。 「ミケハム ……ミケ、お前、名前はミケや」 「……うん」と可愛い声がミケから聞こえた気がした。  わいは、勢いよく立ち上がり、帰り道をダッシュした。 83d5f7e3-0049-4afb-b4dd-c1393c992921
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