6人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
あー、あの日の、わいの冒険 1年生 その8 「夏生、ハムスターを欲しがる」
「今、どこにおるんや?どこいったんや?」
この問いかけで、思い出すもの。
わいの場合、何故か子供の頃、小学校の帰りにいる物売りのおっちゃんの事やった。
別に、そのおっちゃんと何か友情ばなしがある訳でもないし、顔もよう覚えとらん、会話も一言二言しか話してないけど。ある事があって必死で探したんや。
今回はそんなお話し。
わいの名前は 涼石 夏生。
これは、あの頃(小学1年生)を思い出しての話。
ちょっと?結構?昔の話。
: : :
あー、まずいわー。
この、モフモフ感。
小さなゲージの中、ちょこまかと動き回る、三毛の毛並みのハムスター。たまに、ちょこんと止まり、鼻をヒクヒクさせながら、こちらを見る。クリクリした黒目が、何かを訴えるように、こちらを見る。
見てる。
見てるよ。
あーーー、見てる。
やばい。じつに、やばい。
かわいすぎる。
わいは、ゲージに手を伸ばした。
「こらこら、触ったらあかんで。触ってええのは、これ買ってくれた人だけや」
ゲージの横にいたおっちゃんが、木彫りの何か? を取って、わいの前に差し出した。
今では信じれれへんけど、あの頃は、小学校の帰り道に、なんか怪しい物を売っているおじさんなんかがたまにいた。おもちゃ付きの参考書、訳のわからない実験道具、ハンカチやコインを使った手品道具、どれも、子供ながらに胡散臭いと思ったけど、なんでか惹きつけられる。
最初の頃は流石に怖くて、遠巻きに見てたものの、しだいに高学年に混じって近場で見れるようになった。
まあ、いろいろあったけど、その中でも忘れられへんのが、木彫りの置物を売っていたおっちゃんやった。売るものがなくなったのか? 木彫りが趣味なのか?
わいは、おっちゃんに、
「これ、なんなん?」と聞いてみた。
「ハムスターのお守りやで」
「お守り?」
「そや、お守り」
そう言うと、おっちゃんはその木彫りを手に持った。言われてみると、木彫りの置物はハムスターの様やけど、不気味な装飾が施され気味悪い。
「厄よけ、交通安全、合格祈願から安産祈願まで何でもこなすハムスターのお守りやで。安いで、かわんか。いつもは1個千円の所、今日はたったの二百円。二百円やで。……どないや?」
と言って、恐怖のスマイルを近づけてきた。
どないやって。 ……だれが買うねんこんなもん。
おっちゃんは、わいの気持ちなんて考えず、その置き物をわいの手の上に置く。
「ギャッ」と、小さく声がでる。
置物の目がキラリと光る。
「ギョ、今、目、光ったで」
「ええところに気づいたな、ガラス玉が目に入ってんねん。どや、格好ええやろ」
「……う、うん」
おそるおそる置物を台の上にそっと返して、本物のハムスターをもう一度見た。
「……こっちは、かわいいなー」
サツマイモを食べていたハムスターが、動きを止めてこっちを見た。
「あっ」
ハムスターのつぶらな瞳。
「かわいい……」
わいは、目が離せんかった。
「このお守り買ってくれたら、ハムスターあげんで」
「えっ!ほんま、ほんまに、くれんの?」
「ああ、おまけでな。実は、いっぱい子供生まれて困っとってん」
「ほんま? やったね。おまけ万歳や」
もう一度、しゃがんでハムスターをみた。
「あ、今、お金持ってへん」
「お母さんに、相談してき」
「うん。そうするわ」
薄い茶色の毛並みに、黒や白のハムスター。クリクリの黒い目がこっちを見ている。
「ミケハム ……ミケ、お前、名前はミケや」
「……うん」と可愛い声がミケから聞こえた気がした。
わいは、勢いよく立ち上がり、帰り道をダッシュした。
最初のコメントを投稿しよう!