1章. 謎のプロローグ

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1章. 謎のプロローグ

人口1400万人の首都東京。 その発展は鉄道の発達に支えられている。 幹線道路の整備は、車の増加に追いつけず、渋滞都市の連鎖は断ち切れていない。 そんな中、経済都市としての発展を成し得たのは、戦後早くから進められた、鉄道都市計画の賜物(たまもの)である。 現在、東京都の鉄道路線数は85線にも及び、その駅数は国内第1位の717駅。 2位の北海道536駅をはるかに(しの)ぐ数の駅が、この狭い東京都に密集しているのである。 こうして満員電車と、年間300件を超える人身障害事故という問題を抱えながらも、鉄道網はほぼ完成の域に達していた。 〜品川駅〜 ここ品川には、550両を収容可能な、東京総合車両センターと呼ばれる車両基地があり、深夜の車両の収容や、点検・整備を担っていた。 腰に付けた専用無線が鳴る。 「おい、また運転士から、あの信号機が赤のままだったとのクレームだ。まだ直してないのか?さっさとやれ!」 「分かってますよ、丁度今着いたとこです」 熊谷拓哉(くまがいたくや)、品川基地に勤務する整備士である。 少々性格に難はあれど、腕は認められていた。 「全く、いつの時代の代物(しろもん)だよ。」 いつもの様に独り言の愚痴を吐きながら、駅の状況を示す信号塔を蹴った。 「ガンッ」 すると、ずっと赤であった信号が、緑に変わったのである。 「おっと、古い物は古いやり方で直るってか」 そう言って、途中であった本来の車両整備作業へと戻って行った。 その頃。 浅井哲夫(てつお)は焦っていた。 彼が園長を務める清和幼稚園は、各界の著名人御用達とも言える、文部科学省推奨の教育施設であった。 「まだ来ませんか?」 引率(いんそつ)望月明音(もちづきあかね)が急かす。 今日は年長組20名を連れて、山手線を利用した園外授業、つまりは都会の遠足であった。 「あ、もしもし、園長の浅井です。梨香お嬢様が、まだお見えにならないのですが…」 「すみませんが、ただ今義光(よしみつ)様は、話ができる状況ではないので、失礼します」 慌ただしく電話を切られた。 「困りましたね〜。もう出て貰わないと、後ろが全て止まってしまいますので」 駅長が運転士に、待ての合図を送る。 11両編成の山手線。 時計方向の外回りと、反時計方向の内回り、常に各26本の電車が、30の駅を巡回している。 そのうちの1本。 内回り最後尾の車両を、11:00〜13:00の間、誠和幼稚園が貸し切っていた。 その裏では、1番の有力者である帝都銀行専務、菅原義光が、両者に金を回していたのである。 その義光の娘、菅原梨香が遅れていた。 ホームには、内回りを示す女性の自動音声が流れて、次の電車が近いことを知らせていた。(※外回りは男性の声である) 内回り線、品川の一つ手前の大崎駅。 運転士が交代し、ベテランの山岸裕司(やまぎしゆうじ)が電車を走らせる。 山手線で、この大崎ー品川間2kmと、品川ー田町間2.2kmは、カーブも緩く最高時速90kmが出せる区間であった。 品川が近づき、減速に入る。 「おっ、やっと信号機を直したか」 シッカリ指を差す山岸。 「前方良好」 緑のランプを確認し、声を出した…
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