32 選択の日

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32 選択の日

 一七時三十分に工場の正門を出ると、少し横に入った路地に、見覚えのあるタクシーが停まっていた。イケコンから連絡のあった通り。 「お疲れさまでした」  車に近づくと、運転手さんがさっと出てきて、後ろのドアを開けてくれる。他の社員の人が見ていない路地に入っていてもらって良かった。タクシーとは言え、こんな迎え方をしてくれる運転手さんの車に乗り込むのを見られたら、なんて言われるかわからない。 「それでは出発します」 「行き先は……」 「はい。狭間様より伺っております」  全て準備万端てことね。最初は、イケコンも一緒に相模原まで迎えに来るつもりだったみたいだけど、時間も早いし、運転手さんだけで来てもらうことにした。その方が、こちらも気が楽だし。  イケコンと吉岡君のうち、どちらを選ぶか。十一月に競争を始めてから、あっという間だった。それぞれに、毎週工夫を凝らしたおもてなしをしてくれて、ずいぶんいい思いをさせてもらったな。  それも今日で決着をつけないと。  私にとって、最善の選択は何なのか。二人にきちんと説明をする。
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