32 選択の日

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 丸の内の本社ビルの隣に着くと、運転手さんはスマホでイケコンと連絡し始めた。この前と同じように、リモートから支払いが済むと、運転席を飛び出して後ろのドアを開けてくれる。 「行ってらっしゃいませ」 「ありがとうございます」  何度乗っても、この対応には慣れないから、ドギマギしてしまう。  選択の期限は、十八時半。それまでに、二人は待ち合わせ場所にスタンバイしていて、私がどちらかに行く。そして、選ばなかった方には、電話でお話をするつもり。  今まで、入試とか入社試験とか、人に選ばれることは散々経験して来たけれど、人を選ぶというのは初めてだから緊張する。選択すること自体は、自分の決断だから何も迷いはないけれど、それをきちんと説明して、納得してもらえるのか? 何を基準に、どう判断したのか。それが私に取っても、相手に取っても最善だと言えるのか。選ばなかった方にも、選んだ方にも、話ができるのか自信がなかった。  説明する責任がある、なんてかっこいいこと言ったけど、ちゃんと言えるかな……  まだ、十五分ほど時間があるので、ビル一階のカフェに入ってカフェラテを注文した。温かい物を飲んで、心を落ち着けないと、とてもじゃないけど居られない。  イケコンは、ビルの最上階。吉岡君は地下にいるはず。  対照的なようで、実はよく似ているのかもしれないな、あの二人。
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