33 ランニングハイ

5/5
前へ
/178ページ
次へ
「出てくる時に、スポーツドリンク買って来れば良かったな」 「まだまだ平気」  膝立ちからまっすぐ立ち上がり、片足になって反対の足をぶらぶらさせる。まだ腱も筋肉も全然大丈夫。 「そう? ここから先は下りだから、少し楽になるよ」 「じゃ出発しよう。体冷えちゃう前に」 「了解」  また吉岡君を先に、お濠を左手に見ながら走り始めた。  さっきまでの道と違って、どんどん坂を下りて行くので、走るのは楽だった。周りのランナーも、明らかにペースが速い。  桜田門を過ぎて二重橋まで回り込むと、出発した丸の内のビル街が目の前に見えてきた。広場の先に壁のように建っているビルが、キラキラと輝いていてとってもきれい。でも、あの灯り一つ一つの下に、実は残業しているビジネスマンがいると思うと、ちょっとおかしくなってくる。『ああー、もう帰りてー』とか言ってる人もいるんだろうな。  ここからは、大手門までまっすぐに見通せる平らな道だった。 「ねえ、吉岡君」 「なに?」  道幅が広くなったので、横に並んで走りながら話しかけた。 「ここから、あそこの大きな看板まで、競争しよう」 「え? 競争って」 「行くわよ。よーい。スタート!」  言うのと同時に、全力でスパートした。
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!

125人が本棚に入れています
本棚に追加