35 一年後

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 訪問先の会社が入っているビルから出るまでは、ずっと大人しくしていたけれど、歩道に出た途端、思わずガッツポーズをしてしまった。 「やった!」 「やりましたね。素晴らしいプレゼンでしたよ」  一緒に来ていたイケコンも、満面の笑み。これでようやく、二人の給料を稼ぐことができそう、という達成感がすごい。  七月にMBAを取得した英里紗が、準備を整えてアメリカで会社を立ち上げたのは、十一月。事前に準備を進めていたとはいえ、すごいスピードだと思う。英里紗、佳奈、涼介の頭文字を取ってEKRコンサルティング。  私も、五条インダストリーを辞めて、イケコンのアドバイスを受けながら日本側の準備を進めてきた。彼の経験と人脈がなかったら、到底無理だったと思う。  英里紗のプランでは、米国進出をしたばかりの中小企業をマーケットにする予定だったが、イケコンの意見で少し修正していた。すでに進出しているところは、大手商社や投資ファンドからアドバイスを受けてビジネスプランを作っているから、入り込む隙はない。狙うなら『これから進出しようと計画している中小企業』だと。  でも、計画しているかどうかなんて外側からではわからないのでは、と言うと、そこもイケコンの人脈が使えるということだった。これまで事業計画のコンサルティングをしてきた大手企業の、子会社やグループ会社の情報があるから、進出を計画していたり、してそうな会社を絨毯爆撃するという営業計画を出してきた。前職のコンサルティング会社から情報を持ち出すことはできないけれど、公開されている会社の連絡先から電話する分には問題ないと。 「ねえ、佳奈。あの狭間さんって、すごい人材だね。どこで見つけてきたの?」  会社立ち上げ直後、三人が参加する公式なネット会議が終わった後、英里紗から個人チャンネルの方に電話がかかってきた。 「ちょっと仕事でつながりがあって……」 「あの人を見つけてきたのが、佳奈の最大の功績だね」
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