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「さっむいね。風も強いし」
「ここは、特にビル風が強いからな」
気合を入れて着てきたスーツは、春秋用に買ったもので、残念ながら冬仕様ではない。コートも着ていないから、かなり厳しい。朝、工場に行く時は、駅からシャトルバスが出ているから、気温なんてあまり気にしていなかった。
「こ、こっち?」
「もう一つ先のビルに入ったところ」
「うー。走ってもいい?」
「え」
普通に歩いていたら凍死しそうだから、いっそのこと、走って温まった方がいい。もう一ブロックならすぐだ。バッグを抱えて走り出すと、吉岡君も少し後ろについて来た。ヒールじゃなくて、ぺたんこのスニーカーを履いてきて良かった。
目標のビルの前に着くと、走ったから体はポカポカになり、風向きのせいかビル風もおさまっていた。
「はあ、はあ、はあ、遠藤さんて、足、速いな」
「そう?」
「俺、陸上部だったから、足は自慢なんだけど、遠藤さんについて来るのに、結構本気で走ったぞ」
「私も陸上部だったから」
吉岡君の目が、きらりと光った。
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