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敵の数も増えてきたことですし最初から使いますかね。
【Circle・Of・Life】
背面に現れた白い球体。それから生み出された数十個の白い光が球体の周りを時計回りにゆっくりと回っている。
『circle・of・life』微妙に長いのでCOLと呼んでいますが、この能力は所謂治癒能力。輪をなぞるように動いている白い光が負傷したプレイヤーを自動判別し、その対象の元へ飛んでいき回復させます。
COLは少量の命力で効果的に治療することができますが、私自身の身体を治療する場合には膨大な命力を消費するので、回復したとしてもその引き換えに命力を全て失うリスクも発生してしまい使い勝手悪いんですよね。
それを補うような特性もあるにはあるのですが───。
次に回復能力を手に入れることがあったらもう少しマシなものを選ばなければ。そんなことを考えながらいつもどおり上空へ移動する。
──っ!
足元から届く爆発音と悲鳴。火煙が上がるその場所めがけてCOLが次々に飛んでいく。
原城が建っている突き出たこの地形を取り囲むように海に浮かぶ4隻の帆船。そこから放たれる砲撃は確実に私達を狙っていた。
一次侵攻のときこそ海上は確認したもののこれまで攻撃がなかったことや、増える敵の数ばかりに意識が向き完全に油断していた。
スクエアボックスを展開し砲撃を受け止める。
あちこちで立ち昇る炎の柱。
地面に降り立ち、すれ違った急ぎ足の兵士に声をかける。
「被害状況はどうなっているのでしょう?」
少しの間を空けた後に振り返り答える。
「本丸の方は着弾こそしたものの、誰もいなかったので人的被害はありません。左陣の救護班の被害が大きいようです。」
お礼を伝えると足早に前線へと戻っていった。
女性や年配の方を後方にまとめて配置してたのがよくありませんでしたね。飛来する砲弾を防ぎながら手当てを進めていく。
被害を確認しに来た時貞さんと話をつけると、時貞さんは瞬時に船まで移動し戦闘に入った。
戻るまでの間、私が主戦場の前線でスクエアボックスを展開し幕府軍の怒涛の攻撃を防ぐ。
一時間攻撃を耐え正当防衛権を手に入れたものの、私がここを離れて敵陣地に飛び敵将を倒すまでの間は能力の範囲対象外となるためサポートに入ることができなくなる。その間に出る被害を考えるとここを離れるわけにはいかなかった。
その姿を厚い雲に隠し、疲弊した私達をじわりと赤らめながら山に沈んでいく斜陽が戦いの終わりを告げる。
攻撃を防ぎきった戦績よりも3,000以上の人間を失った敗北という事実が大きく、過去の二戦のように喜びの声を上げるものはいなかった。
空気の澱んだ陣営を更に追撃が襲う。食糧庫の延焼だ。これにより元々僅かしか持ち合わせの無い食糧の半分以上が焼失し炭と化した。各地で上がる火煙によりその発見が遅れたのも被害を大きくした一因であった。
大多数には、敵船の砲撃によって発生した火災の火が食糧庫に伸びた結果によるものと説明したが、実際には締め切られた食糧庫の内部だけが焼け爛れており、内部から人の手によって火が放たれたことは一目瞭然だった。
仲間内に内通者がいるかもしれない事実を伝えたところで、彼らの間に疑心と混乱を生み、疲弊を増長させるだけとの判断で真実は伏せられた。
それを聞いた私の頭には違和感を感じたひとつの会話が浮かんでいた。
開幕直後、陣地後方からやってきたひとりの兵士。今思えば非戦闘員や治療部隊しかいないはずの後方に何故一般兵がいたのか。そしてそこから私を遠ざけるような言い回し。
あの男が火を放ったことは間違いなかった。
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