与えられた義務

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端から端まで声をかけ、そこから少しの間をおいて今は二人で火にあたっている。 「時貞さん。貴方は何故この戦いを率いているのですか。この戦いに意味はあるのでしょうか。」 火に木を焚べながらゆっくりと私の問いに答えた。 「僕は弱い人間なのです。四郎さんのように傷付いた人を救う能力(ちから)も持ち合わせていません。こうして皆を励まして歩きましたが、いつ命を落とすかと怖くて怖くて堪らないのです。声の震えを気取られぬように自分を押し殺し、綺麗に並び立てた不揃いな言葉達を吐く自分がとことん嫌いなのです。 外側だけ飾り立てた見せかけの神輿に担がれているのはとうの昔の幼子の頃より気付いていました。それでも尚、誰かの救いになるならばと自らを取り繕い皆の理想の姿を演じました。 ここへ来る道中、幕府への一揆の名目に私達のいざこざとは関係の無い村の食糧を奪ってきました。生きるため、大義のためだとデウス様の教えを己の内で歪めて解釈し罪を重ねたのです。その形は日に日に歪になっていきました。 しかしそれをする歪んだ父上を正すことは出来なかった。私は自らの無力さを理由に父上と同じく、その罪は許容されて然るべきものだと歪めたのです。そのような苦悩の(もや)を抱えて此処まで歩いてきました。 ならば今こそ。この地がその償いの場であると私は思っています。私に与えられた贖罪の舞台だと。」 懺悔をするかのように粛々と紡がれていく言葉達。 彼はまたひとつ焚き木を火に焚べ言葉を続ける。 「私はデウス様を信じていますが、その全てを飲み込んでいるわけではありません。それを破り自らが正しいと思う方を取ることもままあります。その選択が正しかったのかどうかは今も分かりませんし、それはこの先もそうでしょう。 こんな僕でも、信じてくれる人がいるならば僕はその人を命ある限り救いたい。これはデウス様の教えでも何でもなく益田四郎時貞としての揺るがぬ矜持です。 僕を信じてくれた、頼ってくれたその瞬間。その人に対して護る義務が生まれると僕は考えます。 私はただ己に与えられた義務をこなしているだけですよ。」 話し終えた折に見せた晴れやかな笑顔は暗い夜を明るく照らす。 決戦前夜の長い夜をなんでもない話で埋めながら朝を迎えた──。 本丸の前に集められたここまで生き残った全ての人々。好次(よしつぐ)と時貞さんが団結と勝利を謳い最後の決起を促す。直ぐに始まる命の奪い合いに皆震えていた。 そんな彼らを閉じ込めるように青い膜が張る。 【スクエアボックス (100×100×5)×4】 100m四方のその箱は一揆軍を綺麗に分けた。箱の中に閉じ込められた時貞さんが「どういうことですか」と声を荒げる。 申し訳ありません。これしか方法が無いのです。 昨夜見たクエストの内容が頭に浮かぶ。 今、籠城している皆さんとは来世でも友達です。 そう呟き皆に背を向け戦場を見る。 辺りを埋め尽くす砂の原。それらがざらざらと蠢くと人の形をして立ち上がる。目の前に現れる始まりの知らせ。 ────────────────────── 〘一揆当千クエスト〙 (β) Age code:1638-04-12  一次侵攻  二次侵攻  三次侵攻  四次侵攻 ▷最終侵攻 一揆軍:18,501人 幕府軍:125,800人 〔最終侵攻クリア条件〕 ・幕府軍兵士殲滅 〔特殊制約〕 ・無し 〔戦闘開始〕 ────────────────────── 目の前に映るは、所狭しと犇めき合う十二万の兵。 ありったけの命力を解き放つ。 天草四郎、出陣です。
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