与えられた義務

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背後にある4つの箱が姿を消す。再び現れたのは原城よりさらに後方、海に浮かぶ8隻の帆船の上。 固定を解除したその箱は下へ下へとゆっくりと降りてゆく。やがて船はその箱によって押し潰され砂となって海に溶けていった。船が崩れたことを確認し再固定し、上面だけを解除する。 与えられた条件は敵の全滅と一揆軍の半数以上の確保。迫る十二万の敵の攻撃が誰かを仕留めればそこで終わり。ならば私がその全ての刃を受け止めればいいだけのこと。命の価値は同じですから。 最も素直に負けるつもりは更々ありませんが。 洋上ならば敵の攻撃も届かない故背後を気にする理由も無い。使用した命力は8,000程。 さて。戦いはここからです。 【スクエアボックス 100×100×100】 海中に作り出した内に海水を含ませた巨大な箱。次の瞬間それは戦場の上空へと飛んでいた。 「能力解除」 消える外殻。支えを失った海水がその直下を大きく穿つ。空からの一撃を受けた兵士たちがその形を崩し外へと流れていく。 三万、いや二万強といったところですかね。 眼下を眺めながら状況を把握する。その時だった。 虚より突如現れた刃。それは間違いなく私の心臓へと向かってきていた。 ステルス能力──。 完全に反応が遅れ攻撃を受けるのは確実だった。COLを発動していなかったことにもそこで気付く。手痛い幕開けですね。僅かでもそれを軽減させようと胸に命力を纏い攻撃に備えた。 しかし攻撃を受けていたのは敵の方だった。それは氷漬けになって下へ落ちてゆく。 「義務が生まれたので来ましたよ。」 背後からかけられる声。振り向くと時貞さんがそこにいた。 「僕を信じて皆を預けてくれたんですよね。」 「皆を守ることも義務のひとつですが、四郎さんを守ることもまた義務のひとつなので。」 いつも妙に大人びた雰囲気を見せる時貞さんが、年相応の悪戯な笑顔を見せる。 「向こうのことも安心してください。万が一敵が来た場合には赤星さんや山田さんが能力で危険を知らせてくれます。僕達は目の前の相手に集中しましょう。」 臨戦態勢に入り青年の顔つきへと変化する。 「先程の技は消耗が激しいので敵の出方が分からない内は無駄撃ち出来ません。ひとまずここから攻撃を仕掛け少しずつ減らしていきましょう。ここは砲撃が当たらないギリギリのラインの上にいるので下からの攻撃は気にする必要はありません。しかし──」 私の言葉を遮る時貞さん。 「しかし、先程のような敵には気を付ける、ですね?」 上がる広角。誰に似たのか随分と嫌味っぽい子に育ちましたね。 広角を上げそれに頷く。 そんなやり取りをよそ目にこちらへ近づく三つの影。その様相を認識できる所までくるとぴたりと止まった。それぞれの両の足の裏には雲のような煙が巻き付いていてそれが身体を浮かせていた。 左の男性は黒、右の男性は白の着物を着ている。顔にはその色に合わせた狐の面を被り素顔を隠している。喉には穴が空いていて向こうの空が穴越しに見える。 手にはそれぞれ金と銀の錫杖のような武器が握られていた。その錫杖の頭には翡翠の飾りが付いていた。 そして二人の奥にいる花魁のような様相の女性。その手には煙管が握られている。頭上には紫に白丸が描かれた柄のない傘が水に浮かぶクラゲのようにふわふわと飛んでいる。 その女性は小さく笑うとひとつの扇子を空いた手に作り出し上から下へ振り下ろした。 「「───っ!」」 動転する視界。気付いたときには時貞さんと共に砂の上に叩きつけられていた。 空に浮かぶ影を見た後に時貞さんに話しかける。 「何が起きたか、分かりますか?」 首を横に振って問いに答える。 私達は目で合図を送り合い、もう一度空へと瞬間移動した。 先程の女性が漸く口を開く。
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