立ち昇る命の光

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Circle・Of・Life(サークル・オブ・ライフ)】 光を分け与え治癒する能力。球体を中心にぐるぐると回る光の輪。それは命の巡りを意味している。 この能力の大きな特徴、それは“与えた命力が10倍に増幅して発動者に戻る”という特性を持つということ。しかしそのタイミングは全くのランダム。1秒のときもあれば1ヶ月、1年のときもあるかもしれません。それは使用者の私も未だに分かっていない。どれがいつのものでと考えてもきりがないのでいつしか考えることをやめていました。 このクエスト中に使用した全ての命力の還元が今同時に起こっている。立ち昇る光の束はそれを証明するには充分だった。 この4ヶ月の間に使用した全て命力が10倍となって身体を満たす。 その量68万1,594。 再稼働したCOLによって身体の傷は完治していた。 二人に視線を戻すと先程以上にこちらを警戒し錫杖を構える。 敵との距離を詰めるとそれを見逃すまいと錫杖が身体を真っ二つに切り裂いた。 「随分と遅いですね。」 縦一線に切り裂かれたのは二人の方だった。錫杖が切り裂いたのは唯一捉えられた私の残像。姿を保つことの出来なくなった敵は名残惜しそうにぼろぼろと落ちていった。 二本の簪に月明かりが反射し光が跳ねる。 「レツ、キョウ──。」 卑禪が二人の名をそっと呟く。 そんな空気を割るように新たな影が現れる。背中には天使のような純白の羽が生え、その手には死神が持つような大鎌が握られている。 「卑禪様。何やら大きな力を感じましたが!卑禪様の危機とあらば倫魁不羈(りんかいふてき)と称されるこの水野勝成(みずのかつなり)が農民の一匹や二匹容易く切り捨てましょうぞ!天下無敵の斬り捨て御免!おや、劣様と怯様の御姿が見えませぬがお二方は何処へ?」 「新五左(しんござ※)はよう口が働くでありんすな。要らぬ。去れ。」 「申し訳ない!風の音でその御声が良く聞こえませぬ!何と仰られましたか?」 「二度も言わすな。」 そういうと口にしていた煙管を離し、息を吹きかけた。 その吐息は夜を照らす赤々とした炎となって水野と名乗った武士をその叫び声諸共焼き尽くした。消炭となったその男は地面に叩きつけられておおきく砕け散った。 「何しているんですか。貴女のお仲間では無いのですか?」 あまりの光景に敵を庇う声が出る。 「仲間かどうかは互いに思い合うことで生まれる不確かな概念でござんしょ?ならばあちきと“あれ”の関係は違うでありんすよ。あちきはこの新五左(しんござ)達を率いる選ばれた一握りの側なのでありんす。あちきの駒の命をどう扱おうが主さんには関係の無い話でござんしょ。」 「それにどうせ散る命でありんしたら上に立つ者が持っていたほうが上手に使えるでありんしょ。『死ぬか生きるか』なぞという言葉がありんすがそれは価値の低い者達の戯言。生死を決める権利を持っているのはこちら側。『殺されるか生かされるか』が正しい言葉でありんしょうに。」 そう淡々と話す卑禪。 ぽんと手を叩き笑顔を見せるとこう続けた。 「そうでありんす。主さんの先程の眩い(わざ)。あちきもやってみることにいたしんしょう。」 敵陣深くから順に呻き声とともに立ち昇る赤黒い光。その光が一つ残らず卑禪の身体に取り込まれていく。 邪気が込められた赤い光を全てを呑み込み終えたその時、私の体は震えていた。 これまでどんなに格上の相手と戦うときでも勝ち筋が見えなくなることは無かった。無数に考えた選択肢から最適な物を選び続けて勝利へと掴み取る。そんな自信があった。 しかし相対しているこれの前ではそんな選択肢すら浮かんでこなかった。勝つ未来が想像できない。こんなことは初めてだった。 「・・・さん。四郎さん!」 時貞さんの呼びかけで漸く我に帰る。 そうですね。 出来ないではありません、やるしかないのです。 迫りくる極大の炎をスクエアボックスで防ぐ。この能力は攻撃の他に熱なども遮断するようになっています。 ──っ! 空気の機微を感じその場から瞬間移動して元いた場所に目を向けるとスクエアボックスは粉々に砕け彼方へと吹き飛んでいた。 扇子の能力と炎の能力。相性が良い分最悪ですね。 ならば──。自分と時貞さんの前に色を黒く変えた先程よりも厚いスクエアボックスの盾を作り出す。 ※新五左…無粋な田舎武士を罵った蔑称
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